イスラエル極右政権の復権と報復の連鎖──止まらない民衆間の暴力
新たな展開の契機
こうした緊張の高まりの背景には、昨年末のネタニヤフ政権の復権がある。オルタナティブとして政権を握ったナフタリ・ベネット首相の早期退陣を受けて、イスラエル史上最長政権を記録したリクード党のベンヤミン・ネタニヤフは2022年12月29日、再び首相に帰り咲くこととなった。
今期のイスラエル内閣では、リクード党がこれまでと同様に宗教政党のシャスと統一トーラー党と組んだだけでなく、極右と位置付けられる「ユダヤの力」党および「宗教シオニズム」党もまた与党に組み込まれた。これによりかろうじて過半数を超えて成立した現在のイスラエル政権は、史上最も右寄りのタカ派政権と呼ばれている。
右派の「宗教シオニズム」は選挙戦当時から、イスラエルの司法を「左翼に独占されている」と批判しており、組閣後早々に司法改革案を提示した。これらの法案は、最高裁をはじめとする司法の権限を、立法の権限拡大により制限しようとするもので、大きな反発を招いた。
イスラエルは中東諸国の中でも安定した民主主義を確立した国としてその立場を誇ってきたが、今回の司法改革は実現すれば三権分立という民主主義の根幹が揺るがされるとの危機感を招いた。
反対する人々が、イスラエルの国内各地で大規模な抗議集会を展開し、2023年1月から12週連続でデモが続くこととなった。おさまらない批判に対して、ネタニヤフ首相は法案の審議を一時延期することを発表した。その後、与野党間での合意が試みられてきたが成立には至らず、法案は再び提出されて抗議が再開する可能性がある。
こうしたイスラエル国内での抗議行動が国際的に注目を集める一方で、看過されてきたのがパレスチナ側との衝突の急増だ。極右政権の政治家の一部は、公然とパレスチ側との対立をあおっている。
国家安全保障大臣のイタマール・ベン=グヴィールは、かつて非合法化されたカハネ主義の支持を明言しており、着任直後の1月3日にはイスラーム教徒の聖地であるハラム・アッシャリーフを訪問してハマースを挑発する声明を出した。財務大臣と国防省内大臣を兼任するベツァルエル・スモトリッチは、1月8日にパレスチナ自治政府への付加価値税の送金を停止し、2月に起きたフワラ襲撃では「村を消し去れ」と入植者らをあおり呼びかけた。
こうした政治家個人による扇動ばかりでなく、ネタニヤフ新政権ではパレスチナ自治区内での入植地の拡大も計画されている。銃撃事件の起きたエリ入植地でも1,000戸の建設を進める案が承認された。パレスチナ人の権利を奪い生活圏を脅かす入植地の建設は、オスロ合意の際にも和平プロセスを崩壊させた要因のひとつとなっており、深刻な情勢の悪化をもたらす危険性をはらむ。