「多様性」「持続可能性」を促進...F1ステファノ・ドメニカリCEOに聞く、若い新規ファンの獲得戦略

DRIVE TO WIN

2023年6月22日(木)15時30分
ポール・ローズ(ジャーナリスト)

ハミルトンはロンドン近郊のブルーカラーの町で育ち、父親は息子の夢をかなえるために複数の仕事を掛け持ちし、息子がレースで使ったカートを夜通し修理していたという。スペインの新聞ASによれば、ハミルトンは「普通の労働者階級の家庭で育った私が、今ここにいる。あり得ない話だね。ライバルたちはずっと金持ちだ」とも語っている。

出場にかかる莫大な資金

ドメニカリはF1の世界に経済的な「参入障壁」があることを認めつつも、「今F1に参戦しているドライバーの半数以上は一般家庭の出身だ」と反論した。いい例がアルピーヌに所属するフランス人ドライバー、エステバン・オコンの場合だ。彼の父親は自動車修理工場を経営していたが、息子をレーサーにするために事業も家も手放した(その後はキャンピングカーで暮らし、最初のうちは下級レースで各地を転戦する息子に付き添ったという)。

F1の舞台に立つまでには莫大な資金が必要だ。メルセデスF1チームのトト・ウォルフ代表兼CEOは15年に、ビジネスメディアのラカンターにこう語っている。「優れた選手がいたとして、まずはFIAカート世界選手権のジュニア、シニアを経て一般の国際レースまでに100万ユーロ(約1億5000万円)はかかる」。それからF4、F3、F2と順調に進んでいけば「F1は目の前だが、それでもあと200万~300万ユーロは使わないと到達できない。合計すると700万~800万ユーロになる。まあ、ざっと800万ユーロ(約12億円)と言っておこうか」

フロリダ州出身のローガン・サージェントの場合は、海運で財を成した裕福な親の後ろ盾があった。地元のカート選手権で活躍した後、12歳で兄ダルトンと父ダニエルと共にF1の夢を追って渡英。今はロンドンを拠点とし、アメリカ人として昨年初めてF2で優勝した。それで今年はウィリアムズ・レーシングのF1チームに招かれた。「両親のおかげだ。本当に世話になった」と本人も親の恩を認めている。

230627p18_F1H_07.jpg

マイアミGPで優勝したマックス・フェルスタッペン CHRIS GRAYTHEN/GETTY IMAGES

マイアミGPの会場はマイアミ郊外のハードロック・スタジアムを囲む専用の仮設サーキット。今年は27万人のファンが押し寄せるという人気ぶりだった(昨年の初開催時より3万人増えた)。中にはジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような大富豪もいれば、俳優のトム・クルーズ、カンザスシティ・チーフスのクオーターバック、パトリック・マホームズの姿もあった。超人レーサーたちと怪力マシンを一目見たくて、みんな集まってくる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中