「多様性」「持続可能性」を促進...F1ステファノ・ドメニカリCEOに聞く、若い新規ファンの獲得戦略

DRIVE TO WIN

2023年6月22日(木)15時30分
ポール・ローズ(ジャーナリスト)

F1は本当に30年までのカーボンニュートラルを実現できるのか。環境保護団体グリーンピースのアースラ・ビトナーは本誌の取材に、カーボンクレジットを使うのは「論外」だと答えた。「相殺という選択肢がある限り排出量は減らない。逆効果だというのが私たちの見解だ」

女性レーサーの育成を目指す

230627p18_F1H_10.jpg

女性限定F1アカデミー初年度にバレンシアで走行前のエメリー・デ・ヒュース ERIC ALONSOーFORMULA 1/GETTY IMAGES

レース場に詰めかけるファンの排出する二酸化炭素も、F1側は計算に入れていないようだ。22年シーズンの観客動員数は約500万人とされるが、その10%が100キロ前後を車で移動したとすれば、それだけで1万トンの二酸化炭素が排出されるとビトナーは言う。乗用車6000台の年間排出量に相当する量だ。

とはいえ、ビトナーもF1の取り組みを全否定するわけではない。「F1が本気で取り組むなら」と彼女は言う。「素晴らしいロールモデルになれると思う。他のスポーツや一般の人々の手本になるし、科学への投資を促すことにもなる」

環境保護だけでなく、F1は多様性の問題にも取り組んでいる。例えば今年から始めた「F1アカデミー」というレースは、女性ドライバーの育成を目指す。ちなみに、過去にF1に参戦した女性ドライバーは2人しかいない。

ドメニカリは言う。「F1アカデミーを開催してみて、このスポーツに魅力を感じてくれる女性たちの存在を確認できた。ドライバーだけでなく、エンジニアやメカニック、運営スタッフなども含め、レース界全体で多様な文化、多様な人材を育てていきたい」

F1はまた、ドメニカリの前任者チェース・キャリーが個人で100万ドルを寄付して20年に立ち上げた奨学金制度を拡大している。経済的に恵まれない若者に対し、F1で働き、エンジニアとして訓練を受ける機会を提供するプログラムだ。

多様性の問題には「本気で、すごく本気で取り組んでいる」とドメニカリは強調した。「社会的、経済的に恵まれない人々に奨学金を出し、彼らが夢の実現に向けて歩めるようにしてあげたい」

そうは言ってもF1ドライバーへの道は険しく、資金と人脈が大きくものをいう。例えばカナダ人のランス・ストロール(アストンマーチン)は、父親が億万長者の実業家ローレンス・ストロール。イギリスの名門アストンマーチンを買収した人物で、アストンマーチンF1チームのオーナーでもある。マックス・フェルスタッペンも、父親ヨスが元F1ドライバーだ。

黒人ドライバーとしてF1史上初めて年間総合優勝を果たしたイギリスのルイス・ハミルトン(メルセデス)に言わせれば、今のF1は「超大金持ちのボーイズ・クラブ」だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中