「多様性」「持続可能性」を促進...F1ステファノ・ドメニカリCEOに聞く、若い新規ファンの獲得戦略
DRIVE TO WIN
F1は本当に30年までのカーボンニュートラルを実現できるのか。環境保護団体グリーンピースのアースラ・ビトナーは本誌の取材に、カーボンクレジットを使うのは「論外」だと答えた。「相殺という選択肢がある限り排出量は減らない。逆効果だというのが私たちの見解だ」
女性レーサーの育成を目指す
レース場に詰めかけるファンの排出する二酸化炭素も、F1側は計算に入れていないようだ。22年シーズンの観客動員数は約500万人とされるが、その10%が100キロ前後を車で移動したとすれば、それだけで1万トンの二酸化炭素が排出されるとビトナーは言う。乗用車6000台の年間排出量に相当する量だ。
とはいえ、ビトナーもF1の取り組みを全否定するわけではない。「F1が本気で取り組むなら」と彼女は言う。「素晴らしいロールモデルになれると思う。他のスポーツや一般の人々の手本になるし、科学への投資を促すことにもなる」
環境保護だけでなく、F1は多様性の問題にも取り組んでいる。例えば今年から始めた「F1アカデミー」というレースは、女性ドライバーの育成を目指す。ちなみに、過去にF1に参戦した女性ドライバーは2人しかいない。
ドメニカリは言う。「F1アカデミーを開催してみて、このスポーツに魅力を感じてくれる女性たちの存在を確認できた。ドライバーだけでなく、エンジニアやメカニック、運営スタッフなども含め、レース界全体で多様な文化、多様な人材を育てていきたい」
F1はまた、ドメニカリの前任者チェース・キャリーが個人で100万ドルを寄付して20年に立ち上げた奨学金制度を拡大している。経済的に恵まれない若者に対し、F1で働き、エンジニアとして訓練を受ける機会を提供するプログラムだ。
多様性の問題には「本気で、すごく本気で取り組んでいる」とドメニカリは強調した。「社会的、経済的に恵まれない人々に奨学金を出し、彼らが夢の実現に向けて歩めるようにしてあげたい」
そうは言ってもF1ドライバーへの道は険しく、資金と人脈が大きくものをいう。例えばカナダ人のランス・ストロール(アストンマーチン)は、父親が億万長者の実業家ローレンス・ストロール。イギリスの名門アストンマーチンを買収した人物で、アストンマーチンF1チームのオーナーでもある。マックス・フェルスタッペンも、父親ヨスが元F1ドライバーだ。
黒人ドライバーとしてF1史上初めて年間総合優勝を果たしたイギリスのルイス・ハミルトン(メルセデス)に言わせれば、今のF1は「超大金持ちのボーイズ・クラブ」だ。