「多様性」「持続可能性」を促進...F1ステファノ・ドメニカリCEOに聞く、若い新規ファンの獲得戦略
DRIVE TO WIN
アメリカでこんなに盛り上がるまでには、F1サーキットの舞台裏を描いたネットフリックスの連続ドキュメンタリー『栄光のグランプリ』の力が大きかった。ニールセンの調べによると、今年2月のシーズン5の第1週の視聴者数は57万人弱。番組始まって以来の多さで、昨年のシーズン4開始時から40%も増えた。またスタティスタの調査では、アメリカのF1ファンは19年の4490万人から22年の4920万人へと増えた。アメリカの成人F1ファン1900人弱を対象にした22年3月のモーニングコンサルトの調査では、53%の人がF1レースを見るようになったきっかけは『栄光のグランプリ』だと答えていた。
「あの番組は自動車レース番組にとって必要なものを提供した。それはレーサーたちを人物として描き出すということだ。まだ年齢の低い視聴者に関心を持たせれば、生涯を通じてファンになってもらえる」と指摘するのは、セントルイス大学経営大学院のブレット・ボイル准教授(マーケティング)。リアリティー番組『リアル・ハウスワイブズ』が女性たちに受けたのと同じで、「ドライバーたちの間にあるドラマや競争心、そして裏話」が見えたからヒットした。人間の顔が見えなければ、レース番組なんて「ただ車の疾走を観察するだけ」になってしまう。
富裕層の若者がターゲット
『栄光のグランプリ』を見てファンになったのは、まさにF1が狙うリッチな若者たち。ニールセンによると約46%が34歳以下で、69%が年収10万ドルを超える。モータースポーツ・ネットワークとF1、ニールセン・スポーツの共同調査によると、世界的に見てもF1のファン層はプロスポーツの中でもとりわけ若く、平均年齢は32歳だという。
人気上昇のおかげでF1GPの開催数も増えた。20年には17戦だったが、今季23年は22戦だ(エミリア・ロマーニャGPが豪雨で、中国GPがパンデミックの余波で開催中止にならなければ24戦だった)。いずれ年間30戦になるという臆測もあるが、ドメニカリは否定する。「開催希望地はたくさんあるが、バランスが大事。当面は24戦でいい」
レース数を変えずに新しい市場へ進出するとなれば、欧州の伝統的なレースが除外される恐れもある。ただしアメリカでの開催は5月のマイアミと10月のオースティン(アメリカGP)、そして11月のラスベガスの3戦のみで、それ以上に増える見込みはない。
「それがバランスというもの」だとドメニカリは言う。「マイアミに来ることができて本当にうれしい。オースティンも楽しみだし、ラスベガスも待ち遠しい」が、新規の開催地については「現地プロモーターや各国の姿勢次第だ。どのGPにも異なる個性が必要だ」と語る。