最新記事
スキャンダル

元ドイツ空軍パイロットは中国で何をしているのか? 大スキャンダルの背景にある「中国軽視」

Still Naïve on China

2023年6月14日(水)16時15分
フランツシュテファン・ガディ(英国際戦略研究所上級研究員)
ドイツ・トーネード戦闘機

ドイツと中国には軍事協力の歴史があるが(写真はドイツのトーネード戦闘機) FABIAN BIMMERーREUTERS

<昨年の英軍に続き、独軍の元パイロットが中国空軍に戦術や機密情報を漏らした疑惑が発覚。かつて米軍パイロットが中国に空母着陸技術を教示したことで起訴されているが...>

ドイツ空軍と中国空軍の間には、長い協力の歴史がある。ナチス・ドイツは1930年代、中国(当時は国民党率いる中華民国)に軍事顧問を派遣し、毛沢東率いる共産党軍と日本軍という2つの敵と戦う政府軍の空軍創設と訓練に協力した。

それでも今年6月2日、独シュピーゲル誌に掲載された「元ドイツ空軍パイロットは中国で何をしているのか」という記事は衝撃的だった。かつてドイツ空軍で戦闘機を操縦していた数人の元軍人が、10年ほど前から中国空軍の訓練に協力しているというのだ。

シュピーゲルは「彼らが軍事的な専門知識や戦術上の機密情報を(中国空軍に)伝えたり、台湾侵攻などのシナリオで訓練したりしている可能性は非常に高い」というドイツ安全保障当局者のコメントを紹介している。

例えば、元パイロットたちは冷戦時代とその直後にドイツ空軍が得意とした、敵防空網の制圧(SEAD)と破壊(DEAD)のノウハウを教えた可能性がある。もしも台湾有事が起きて、中国が制空権を握ろうとするとき、この知識は大いに役に立つはずだ。

実際、第2次大戦後のドイツ空軍の唯一の実戦経験は99年のコソボ紛争だが、NATO軍のユーゴスラビア空爆に参加し、電子戦機を使ってユーゴの防空網を破壊した。

ほかにも、ドイツの元軍人たちはさまざまなことを中国軍に教えたかもしれない。

NATOの航空作戦における戦闘機の編成や装備体系もその1つだ。中国が台湾の防空網を制圧するときも、複数のタイプの戦闘機による航空部隊が編成され、巡航ミサイルやドローンを駆使した作戦全体に統合されるだろう。

このような作戦は複雑な要素を考慮して立案・実行する必要があり、歴史が浅い中国空軍にはとりわけ困難なはず。それだけに、NATO軍という潜在的な敵の戦術は、中国にとって貴重な情報だ。

中国の脅威に無頓着

これに先立つ2022年10月には、元英空軍パイロット「少なくとも30人」が、中国空軍に助言を与えているという報道があった。こちらも中国のパイロットたちに、NATO軍の戦術や欧米諸国の戦闘教義を教えていたらしい。

ドイツやイギリスの元パイロットたちが、軍事という極めてセンシティブな領域で、個人ベースで長期にわたり中国に協力できた背景には、ヨーロッパの中国に対する甘い認識がある。

キャリア
企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を実現し続ける転職エージェントがしていること
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中