ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る
Russia Unraveling?
戦争が長引くほどプーチンのリーダーシップに疑問符が重なっていく GAVRIIL GRIGOROVーSPUTNIKーKREMLINーREUTERS
<ウクライナ軍の反攻を前にドローンが首都を攻撃し、「義勇軍」は国境の村を占拠>
ロシアの首都モスクワで5月30日、何とも奇妙な光景が市民を驚かせた。白昼堂々と正体不明のドローン(無人機)の群れが市の中心部に飛来したのだ。ロシア当局によればその数は8機だが、ネット上では5機から25機以上までさまざまな説が入り乱れた。
象徴的な攻撃ではなかった。クレムリン宮殿の尖塔の上にはためく国旗をドローンで倒すといったものではない。ターゲットは不明。ロシア当局は5機をミサイルで撃墜し3機を電子妨害で無効化したと発表したが、制御を失ったドローンが集合住宅に激突した。モスクワが空から攻撃されたのは1941年のナチス・ドイツによる空爆以来のことだ。
ところが翌日には、このドローン攻撃はロシアの国営メディアのトップニュースではほとんど扱われず、モスクワ市民は何事もなかったかのように日常を取り戻した。影響らしきものといえば、さらなるドローン攻撃を防ぐためにGPSサービスが停止され、タクシーの配車アプリが使いにくくなったことくらいだ。
とはいえ、ロシア人にとっては気の毒なことに、首都がやすやすと狙われたこの屈辱的な襲撃はほんの手始めにすぎず、その後の長い1週間に祖国防衛の手薄さを印象付けるニュースが次々に伝えられることになった。
6月4日には、「自由ロシア軍団」および「ロシア義勇軍団」を名乗り、「プーチン支配のくびきからロシアを解放する」と豪語する2つの武装集団が、ウクライナ北東部と国境を接するロシア西部のベルゴロド州に侵入し、ほぼ無抵抗で村を占拠したと発表した。国境警備が手薄だったのは訳がある。この一帯に配備されていたロシア兵の大半はウクライナ軍の大規模な反転攻勢に備えてウクライナ東部と南部に移動していたのだ。
武装集団の1つは、一時期占拠した国境の村で数人のロシア兵を捕虜にした。そしてベルゴロド州のビャチェスラフ・グラドコフ知事に捕虜交換に応じるよう呼びかけた。意外にも知事はこれにあっさり応じたが、結局は捕虜引き渡しの場に現れなかった。
ブーメラン効果に苦しむ
国境から約8キロにあるベルゴロド州シェベキノ(戦争開始前の人口は約4万人)は厳戒態勢が敷かれ、住民は避難を余儀なくされた。突然家を追われることになった住民にすれば、プーチン政権は自分たちを見捨てたも同然だ。
ウクライナ政府はしてやったりとばかり、ロシア領内に侵入したのはロシア人戦闘員であり、自分たちは彼らを統制できないと主張した。2014年春にロシアが支援する武装集団がウクライナ東部への攻撃を開始したとき、プーチンが言ったセリフをそっくりそのままお返しした格好だ。