ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る
Russia Unraveling?
ロシアにとってさらに屈辱的だったのは、ウクライナのツイッターユーザーたちが早速、ベルゴロド州のウクライナ語表記を用いて「ビルホロド人民共和国」の誕生を宣言したことだ。彼らの悪ふざけはさらに続き、この地域の人口の「100%超を占めるロシア系住民」が住民投票で分離独立を支持した、などとツイート。住民投票で支持されたと主張してウクライナ東部の2つの「共和国」の独立を承認したロシアの理不尽なやり方を皮肉ってみせた。
ドローンの首都襲来にしろ武装集団の越境攻撃にしろ、ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返ってロシアを痛めつけているのは明らかだ。今のロシア軍には祖国を強固に防衛しつつ、ウクライナを支配下に置くなどという離れ業はできっこない。
折しも戦況はウクライナ優勢に傾きつつある。ウクライナ東部ドンバス地方ではロシア軍の攻勢は行き詰まり、ウクライナ軍は東部と南部で反転攻勢に向けた偵察攻撃を行いつつ、西側が新たに供与した長距離ミサイルでロシア軍の拠点を猛攻。ロシア領内の重要施設を狙ったドローン攻撃も実施しているとみられる。
そして、ロシアの態勢はほころびつつあるようだ。その格好の例として、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンとロシア国防省の激しい対立はさらにエスカレートしている。
プリゴジンは6月4日、ウクライナ東部の占領地でワグネルが拘束したロシア軍将校を尋問する動画を公開した。ロシア軍第72機械化旅団の中尉と名乗る男性はカメラの前で、ワグネルを撃つよう部隊に命令したと認めた。ロシア人同士が撃ち合い、軍事会社の傭兵が自国の正規軍の上級将校を捕らえる──国家崩壊の足音が聞こえてきそうだ。
ロシア領内への攻撃やドローンのクレムリン攻撃は、戦争の全体的な展開には大きな影響を及ぼさないとしても、心理的な影響は計り知れない。
国営テレビのトーク番組は、普段は陽気な愛国主義とウクライナ侵攻の話題を交互に繰り返しているが、最近は敗北主義に傾きつつある。事実上の国営メディアであるニュース専門テレビ局RTのマルガリータ・シモニャン編集長は他局のトーク番組で、第1次大戦でロシア帝国軍が大敗を喫し、兵士が反乱を起こして政権が転覆した1917年に重ねるような発言をした。
6月1日の公開討論会で与党・統一ロシアの有力議員コンスタンティン・ザトゥリンは、戦争の展開に異例の率直さで疑問を投げかけ、戦争の目標は「非現実的」だと言った。党は直ちに、問責の可能性がある発言のため調査をしていると発表した。