最新記事
ロシア

ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る

Russia Unraveling?

2023年6月14日(水)15時00分
アレクセイ・コバリョフ(調査報道ジャーナリスト)

230620p29_RSK_02.jpg

ロシア人のパルチザン部隊「ロシア義勇軍団」はロシア兵を捕虜にすることも VIACHESLAV RATYNSKYIーREUTERS

ロシアにとってさらに屈辱的だったのは、ウクライナのツイッターユーザーたちが早速、ベルゴロド州のウクライナ語表記を用いて「ビルホロド人民共和国」の誕生を宣言したことだ。彼らの悪ふざけはさらに続き、この地域の人口の「100%超を占めるロシア系住民」が住民投票で分離独立を支持した、などとツイート。住民投票で支持されたと主張してウクライナ東部の2つの「共和国」の独立を承認したロシアの理不尽なやり方を皮肉ってみせた。

ドローンの首都襲来にしろ武装集団の越境攻撃にしろ、ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返ってロシアを痛めつけているのは明らかだ。今のロシア軍には祖国を強固に防衛しつつ、ウクライナを支配下に置くなどという離れ業はできっこない。

折しも戦況はウクライナ優勢に傾きつつある。ウクライナ東部ドンバス地方ではロシア軍の攻勢は行き詰まり、ウクライナ軍は東部と南部で反転攻勢に向けた偵察攻撃を行いつつ、西側が新たに供与した長距離ミサイルでロシア軍の拠点を猛攻。ロシア領内の重要施設を狙ったドローン攻撃も実施しているとみられる。

そして、ロシアの態勢はほころびつつあるようだ。その格好の例として、民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジンとロシア国防省の激しい対立はさらにエスカレートしている。

プリゴジンは6月4日、ウクライナ東部の占領地でワグネルが拘束したロシア軍将校を尋問する動画を公開した。ロシア軍第72機械化旅団の中尉と名乗る男性はカメラの前で、ワグネルを撃つよう部隊に命令したと認めた。ロシア人同士が撃ち合い、軍事会社の傭兵が自国の正規軍の上級将校を捕らえる──国家崩壊の足音が聞こえてきそうだ。

ロシア領内への攻撃やドローンのクレムリン攻撃は、戦争の全体的な展開には大きな影響を及ぼさないとしても、心理的な影響は計り知れない。

国営テレビのトーク番組は、普段は陽気な愛国主義とウクライナ侵攻の話題を交互に繰り返しているが、最近は敗北主義に傾きつつある。事実上の国営メディアであるニュース専門テレビ局RTのマルガリータ・シモニャン編集長は他局のトーク番組で、第1次大戦でロシア帝国軍が大敗を喫し、兵士が反乱を起こして政権が転覆した1917年に重ねるような発言をした。

6月1日の公開討論会で与党・統一ロシアの有力議員コンスタンティン・ザトゥリンは、戦争の展開に異例の率直さで疑問を投げかけ、戦争の目標は「非現実的」だと言った。党は直ちに、問責の可能性がある発言のため調査をしていると発表した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中