最新記事
ロシア

ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る

Russia Unraveling?

2023年6月14日(水)15時00分
アレクセイ・コバリョフ(調査報道ジャーナリスト)

230620p29_RSK_03.jpg

ワグネルの創設者プリゴジンはロシア軍が自分たちを標的にしていると非難 PRESS SERVICE OF "CONCORD"ーREUTERS

公然と反旗を翻す人々

こうした混乱の中、ロシアの急進的な民族主義右派の一部はプーチンの優柔不断さを直接、攻撃し始めている。

元ロシア連邦保安局(FSB)大佐のイーゴリ・ギルキンは80万人以上の視聴者がいるテレグラムのチャンネルで毎日のように、プーチンのリーダーシップの欠如を嘲笑している。

ドンバス地方で親ロシア派武装勢力を率いてウクライナ政府軍と戦ったギルキンは、オランダの国際司法裁判所に出廷しないまま22年に終身刑を言い渡されている戦争犯罪者でもある。彼が共同設立した過激な超国家主義グループ「怒れる愛国者クラブ」は、「軍の信用を失墜させた」容疑で捜査中と報道されている。

ロシア当局は苦境に立たされている。国の指導部を最も声高に批判する人々を起訴しなければ弱腰と見なされ、検閲を擦り抜けた不満がさらに増えかねない。

しかし、起訴したらしたで、ロシア政府より戦争に深く関与している右派ナショナリストの怒りをあおる恐れがある。さらに、ワグネルなど準軍事組織は軍の他の勢力との対立が長期化しており、ロシアの最高司令部に公然と反抗するようになった。

ロシアの統制が崩壊しつつある今、プーチンはどこにいるのだろうか。ドローンがモスクワを攻撃した日、大統領が国民に向けて緊急演説をすることはなかった。

その日、業界団体の会議に出席したプーチンは記者団のインタビューに応じ、7分間にわたっていつものように文明の衝突やNATOの侵攻について非難し、いつもと同じ不満を取りとめもなくぼそぼそと語った。ドローン攻撃にも言及したものの、モスクワの防空部隊が撃退したことを称賛した程度だった。

ベルゴロド州の住民も国のリーダーがパニックを鎮めてくれるのではないかと待ちわびているが、前線での最近の注目すべき変化について、プーチンから具体的な発言は今のところない。

ロシア人が戦争と呼ぶことを許されていないプーチンの戦争物語に、後退の文字はない。そして、戦争がここまで長期化する可能性も、ウクライナが再び攻勢に転じる可能性も、無人機がモスクワを攻撃する可能性も、ロシア人戦闘員がロシアの領土を解放すると主張する可能性も、プーチンの物語には織り込まれていなかった。

プーチンが自らつくり出した未曽有の危機のさなかに彼の支配が解体しつつある。

From Foreign Policy Magazine

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中