ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る
Russia Unraveling?
公然と反旗を翻す人々
こうした混乱の中、ロシアの急進的な民族主義右派の一部はプーチンの優柔不断さを直接、攻撃し始めている。
元ロシア連邦保安局(FSB)大佐のイーゴリ・ギルキンは80万人以上の視聴者がいるテレグラムのチャンネルで毎日のように、プーチンのリーダーシップの欠如を嘲笑している。
ドンバス地方で親ロシア派武装勢力を率いてウクライナ政府軍と戦ったギルキンは、オランダの国際司法裁判所に出廷しないまま22年に終身刑を言い渡されている戦争犯罪者でもある。彼が共同設立した過激な超国家主義グループ「怒れる愛国者クラブ」は、「軍の信用を失墜させた」容疑で捜査中と報道されている。
ロシア当局は苦境に立たされている。国の指導部を最も声高に批判する人々を起訴しなければ弱腰と見なされ、検閲を擦り抜けた不満がさらに増えかねない。
しかし、起訴したらしたで、ロシア政府より戦争に深く関与している右派ナショナリストの怒りをあおる恐れがある。さらに、ワグネルなど準軍事組織は軍の他の勢力との対立が長期化しており、ロシアの最高司令部に公然と反抗するようになった。
ロシアの統制が崩壊しつつある今、プーチンはどこにいるのだろうか。ドローンがモスクワを攻撃した日、大統領が国民に向けて緊急演説をすることはなかった。
その日、業界団体の会議に出席したプーチンは記者団のインタビューに応じ、7分間にわたっていつものように文明の衝突やNATOの侵攻について非難し、いつもと同じ不満を取りとめもなくぼそぼそと語った。ドローン攻撃にも言及したものの、モスクワの防空部隊が撃退したことを称賛した程度だった。
ベルゴロド州の住民も国のリーダーがパニックを鎮めてくれるのではないかと待ちわびているが、前線での最近の注目すべき変化について、プーチンから具体的な発言は今のところない。
ロシア人が戦争と呼ぶことを許されていないプーチンの戦争物語に、後退の文字はない。そして、戦争がここまで長期化する可能性も、ウクライナが再び攻勢に転じる可能性も、無人機がモスクワを攻撃する可能性も、ロシア人戦闘員がロシアの領土を解放すると主張する可能性も、プーチンの物語には織り込まれていなかった。
プーチンが自らつくり出した未曽有の危機のさなかに彼の支配が解体しつつある。