最新記事
トルコ

超インフレ、通貨暴落、地震被害...招いた張本人が危機をあおって「救世主エルドアン」となる、トルコの皮肉な現実

Why Erdogan Won

2023年6月5日(月)13時23分
ギョニュル・トル(米中東研究所トルコ担当理事)

230613p28_TRK_02.jpg

トルコを救う「強い指導者」を求める人たちがエルドアンの勝利を祝う UMIT BEKTASーREUTERS

今回の大統領選では、野党統一候補のケマル・クルチダルオールが有権者にテキストメッセージを送ると、トルコ情報通信技術庁がそれを嗅ぎつけ、政治宣伝のためのメッセージアプリの使用は選挙違反であり、送信をブロックしなければ事業認可を取り消すと、通信会社に書面で通告した。

こうした事情に加え、民主主義を守ることより生活防衛を優先する人々の意識も、野党の敗北につながったようだ。

エルドアンはトルコの民主主義を骨抜きにしてワンマン支配を固めてきた。司法機関を自分に忠実な人間で固め、報道機関も支配し、厳しい言論統制を敷いてきた。

この国ではエルドアンをけなせば侮辱罪に問われる。子供でも容赦されず、侮辱罪で逮捕、起訴された未成年者は1000人近くに上る。

市民の自由を大幅に制限したエルドアンが再選されたのは、多くの有権者が民主主義の危機など大した問題ではないと考えているからだろう。

とはいえ野党の敗因を深掘りすれば、もっと説得力のある説明に突き当たる。エルドアンのような大衆迎合型の独裁者は、社会に広がる不安に付け込み、勝ち目がない選挙でもまんまと勝利をもぎ取れるのだ。

失政続きで社会不安を招いた張本人が、人々の不安をバネに選挙に勝つ──なんとも皮肉な構図ではないか。

「独裁者が枕を高くして眠れるのは景気と治安がいいときだけ」と言われるが、実際は違う。強権的な指導者はたとえ自らの失政で経済を悪化させ混乱を招いても、人々の不安をあおれば政権の座に居座れる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、業績下方修正 フジテレビの広告

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中