超インフレ、通貨暴落、地震被害...招いた張本人が危機をあおって「救世主エルドアン」となる、トルコの皮肉な現実
Why Erdogan Won
今回の大統領選では、野党統一候補のケマル・クルチダルオールが有権者にテキストメッセージを送ると、トルコ情報通信技術庁がそれを嗅ぎつけ、政治宣伝のためのメッセージアプリの使用は選挙違反であり、送信をブロックしなければ事業認可を取り消すと、通信会社に書面で通告した。
こうした事情に加え、民主主義を守ることより生活防衛を優先する人々の意識も、野党の敗北につながったようだ。
エルドアンはトルコの民主主義を骨抜きにしてワンマン支配を固めてきた。司法機関を自分に忠実な人間で固め、報道機関も支配し、厳しい言論統制を敷いてきた。
この国ではエルドアンをけなせば侮辱罪に問われる。子供でも容赦されず、侮辱罪で逮捕、起訴された未成年者は1000人近くに上る。
市民の自由を大幅に制限したエルドアンが再選されたのは、多くの有権者が民主主義の危機など大した問題ではないと考えているからだろう。
とはいえ野党の敗因を深掘りすれば、もっと説得力のある説明に突き当たる。エルドアンのような大衆迎合型の独裁者は、社会に広がる不安に付け込み、勝ち目がない選挙でもまんまと勝利をもぎ取れるのだ。
失政続きで社会不安を招いた張本人が、人々の不安をバネに選挙に勝つ──なんとも皮肉な構図ではないか。
「独裁者が枕を高くして眠れるのは景気と治安がいいときだけ」と言われるが、実際は違う。強権的な指導者はたとえ自らの失政で経済を悪化させ混乱を招いても、人々の不安をあおれば政権の座に居座れる。