超インフレ、通貨暴落、地震被害...招いた張本人が危機をあおって「救世主エルドアン」となる、トルコの皮肉な現実
Why Erdogan Won
一時は野党優勢も伝えられたが、しぶとく再選を勝ち取り、大統領官邸前で勝利演説を行うエルドアン UMIT BEKTASーREUTERS
<大衆迎合型の独裁者は社会不安に付け込み、勝ち目がない選挙でも勝利をもぎ取る。独裁者なのに枕を高くして眠れるエルドアンとトルコ社会について>
5月28日に決選投票が行われたトルコの大統領選では、野党の健闘ぶりが目立った。敗北を喫したのは、重武装した相手に素手で立ち向かうに等しい戦いだったからだ。
相手は自分が有利になるよう選挙制度を変える独裁者、現職の大統領として再選に挑んだレジェップ・タイップ・エルドアンだ。
湾岸諸国の強権的な指導者たちもエルドアンに味方した。選挙前のバラマキで一層悪化した財政・金融危機を緩和するために多額の資金を提供したのだ。
野党は専門家が推奨する「選挙で独裁者を倒す方法」をことごとく実行した。諸党派が団結し統一候補を擁立する、差し迫った問題に対する具体的な処方箋を示し、中傷合戦に陥ることなく建設的な選挙運動を展開する、などだ。
今回の大統領選は政権交代のまたとないチャンスだった。政治腐敗など、エルドアンの長期支配の弊害があらゆる所で噴き出していたからだ。お粗末な経済運営に加え、非伝統的な金融政策をかたくなに推進し、インフレ率は一時3桁台を記録。中央銀行の純外貨準備高はマイナスに転じた。
今年2月上旬に南東部で起きた大地震では、政府の対応の遅れで助かる命も助からず、死者は5万人を超えた。
こうした状況を受け、トルコ全土で変化を求める声がかつてなく高まっていた。それでも野党は苦杯をなめた。一体何が起きたのか。
民主主義より生活が大事
答えの一部は、公正でもなければ自由でもない選挙制度にある。
エルドアン支配下のトルコでは、野党は選挙で圧倒的に不利な立場に置かれる。エルドアンは人望のある野党政治家をありもしない罪に問い投獄する。国家の資源を選挙運動に使い、国営メディアを通じて自身の実績をアピールし、野党候補をおとしめる。
一方、野党候補は絶えず当局に妨害され、有権者に政策を伝えることもままならない。