超インフレ、通貨暴落、地震被害...招いた張本人が危機をあおって「救世主エルドアン」となる、トルコの皮肉な現実
Why Erdogan Won
野党政治家を無能で内紛に明け暮れるばかりの、民意と懸け離れた過激派に仕立て、安定と安全と秩序を求める人々の本能的な心理に訴えれば、政権基盤は安泰だ。有権者は、経済の先行きや治安の悪化に不安を抱くと、条件反射的に強い指導者を求める。
政策の良し悪しや市民の自由は後回しにされ、「われこそは救世主であり、必ずや安寧をもたらす」と請け合う候補者が熱狂的な支持をつかむ。不安におののく人々は未知の天使ではなく、既知の悪魔にしがみつくのだ。
今のトルコに「先行き不安」は売るほどある。多数派のトルコ人と少数民族のクルド人の歴史的な亀裂は、隣国シリアでの内戦でさらに深まった。
シリアでクルド人が支配地域を拡大すると、クルド人の独立国家が誕生して、自国の一部もそこに組み込まれるのではないかと、多くのトルコ人が警戒したからだ。エルドアンは彼らの危機感をあおり、トルコ民族主義の高まりに乗じて権力基盤を固めた。
選挙戦の最中には、非合法組織のクルド労働者党(PKK)と野党とのつながりを示す偽動画を集会で上映。クルチダルオールが当選すれば、服役中のPKKの指導者アブドラ・オジャランが釈放されるとデマを飛ばした。
強引な手腕が求められる
難民危機もまたトルコ人の不安の種になっている。トルコ民族主義者に言わせれば、難民は国家経済に負担を与え、治安を悪化させる「お荷物」でしかない。
低賃金にあえぐ労働者やトルコでは二級市民扱いされているクルド人も、政府の手厚い保護を受けるシリア難民に反感を持っている。それ以外の人々も、シリア難民の流入で家賃が上がり、賃金が下がり、自分たちの血税が難民支援に使われることに不満を募らせている。
そもそもエルドアンの見通しの甘い受け入れ政策が難民の大量流入を招いたのだが、多くの有権者は難民危機を解決できるのはエルドアンだけだと思い込んでいる。
2月の地震で大きな被害を受けた地域でも、エルドアン支持の声が多数を占めた。地震後の対応の遅れ、長年の腐敗、耐震基準の適用免除など、エルドアンの失政による「人災」の側面が大きかったにもかかわらず、被災者の多くはその責任を問わなかった。
家族や住居、地域のつながりを失った被災者は往々にして、即座に復興事業に着手し、1年で再建させると豪語する強気の指導者を頼りにする。