モスクワを攻撃されても事を荒立てたがらないプーチンの秘密とは?
Why Putin is Downplaying Moscow Drone Strikes
モスクワ住宅地へのドローン攻撃に生ぬるい反応を見せたプーチン(5月30日) Sputnik/Gavriil Grigorov/Kremlin/REUTERS
<報復攻撃を求めて熱くなっている国内タカ派を、プーチンはこれ以上刺激したくない。ロシアには有効な報復手段がないからだ>
首都モスクワで5月30日早朝に起きたドローン攻撃について、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「テロの兆候だ」と非難はしたが、事を荒立てないよう努めていると、米シンクタンク・戦争研究所(ISW)は指摘した。大規模な報復攻撃を求める声が上がるなか、決め手となる報復手段がないからだ。
【写真】「攻撃の標的?」「いたずら?」 憶測を呼ぶモスクワ市内の「謎の赤いバツ印」
ロシアはこのドローン攻撃をウクライナ軍によるものと発表したが、ウクライナ側は否定している。プーチンは長引く戦争に疲れた世論の支持をつなぎ止めようと、首都攻撃に際しても毎度お決まりのプロパガンダを繰り返したと、30日夜に発表されたISWの報告書は述べている。
今回のドローン攻撃では、少なくとも3棟の集合住宅が被害を受けたが、負傷者は確認されていない。ロシア政府の発表によると、8機のドローンが首都に飛来し、うち5機を撃墜、残り3機も電子システムによる迎撃でコースを外れたという。ロシアの複数のブロガーが、30機ものドローンが攻撃に加わっていたと示唆しているが、そうした情報は確認されていない。
ISWによると、今回のプーチンの対応は、彼が置かれた政治的立場の危うさをうかがわせる。
報復したくてもできない
「ウクライナに報復しようにも手段は限られている。プーチンがドローン攻撃を大ごとに見せまいとしたのは、その事実を世論に知られたくないからだ」と、ISWは分析している。
プーチンはまた、今回のドローン攻撃はロシア軍が数日前にウクライナ軍の情報本部に行なったミサイル攻撃への報復だと述べたが、ISWによれば、ロシア国防省の作戦行動報告にはそうした攻撃は記録されていない。本誌はこの件について同省にメールで問い合わせ中だ。
「ウクライナはロシアを挑発し、お返しに自分たちと『同じことをさせようと』している」とプーチンは語り、「これまでにも現在も行っているミサイル攻撃を強調した」と、ISWの報告書は述べている。「ロシアは既にウクライナを十分懲らしめているのだから、ウクライナの挑発に乗って新たな攻撃を行う必要はないと、世論に訴えようとしたのだろう」
「ウクライナ側が自軍の攻撃と認めているものもそうでないものも、攻撃があるとプーチンは、毎回判で押したように大規模なミサイル・ドローン攻撃で報復するよう命じてきた。裏を返せばそれは、ロシア軍には戦場で敵に決定的な打撃を与える能力がない、ということを物語る」