最新記事
トルコ

それでもエルドアンを愛し続ける──国父が掲げた「ナショナリズム」は今も健在

Erdogan as “One of Us”

2023年5月29日(月)13時40分
ステファニー・グリンスキ(ジャーナリスト)
イスタンブール

イスタンブール市内のカフェで、5月14日に実施された大統領選第1回投票の行方を見守る人々 MEHMET KACMAZ/GETTY IMAGES

<決選投票にもつれこんだトルコ大統領選。独裁的体制と経済低迷が続いても国民の「草の根のナショナリズム」は終わらない>

小雨が降る朝、トルコの最大都市イスタンブールの人通りは少ない。それでもエルドアン・ベイは、だぶだぶのピンストライプのスーツに、サングラス姿で外出することにした。

イスラム教徒の祈禱用ビーズを手にし、もう片方の手の指にたばこを挟んだ彼は、街角の店で腰を下ろして紅茶を飲む。その背後には、小さなトルコ国旗がテープで貼り付けられている。

あなたの名前は本名か、と聞いてみた。トルコ語で「ベイ」は、男性に対する敬称だ。彼は笑い、たばこを深く吸ってから、テーブルの上に身分証明書を勢いよく置いた。

生まれてから70年間、ベイはずっとイスタンブール市内のカスムパシャ地区で暮らしてきた。高級住宅街に隣接する低所得層労働者の町だ。

子供時代はサッカーに夢中だった。同じくカスムパシャ出身で同じ名前で、ほぼ同じ年齢のトルコの大統領、レジェップ・タイップ・エルドアンがそうだったように......。

10代の頃に食料雑貨店を始めたベイは、妻も子供もなく、パスポートも持っていない。故国があれば、十分だからだ。

紅茶をおごると言って、彼は譲らない。紅茶1杯の値段は3トルコリラ。3年前はドル換算で50セントに相当したが、今では15セントだ。

「トルコのような国がほかにあるか? 外国に旅行する必要などない。ここにはアンタルヤも、コンヤも、イズミルもある」。自分が訪れたことのない国内の景勝地を、ベイは指を折って数え上げる。

20年前、カスムパシャは汚く荒れ果てていたという。

「住民であることが恥ずかしかったが、今はどうだ! モスク(イスラム礼拝所)が改修され、道路はきれいで新しい店もレストランもある」

トルコの好景気と歩みを合わせて、ベイの小さな店も一時期は繁盛した。だがどちらも、もはや過去の話だ。この頃はベイが地元を離れることはめったにない。近所でお茶を飲み、モスクへ行き、友人に会う。

ただ先日、イスタンブールを旧市街と新市街に分ける金角湾の対岸へ出かけた。トルコ海軍の新型艦艇で、世界初のドローン(無人機)搭載可能な強襲揚陸艦「アナドル」を見るためだ。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中