最新記事
アメリカ

中東から始まったアメリカ外交の落日

THE AMERICAN CENTURY ENDS IN THE MIDDLE EAST

2023年5月18日(木)12時20分
トム・オコナー(本誌外交問題担当)
アメリカ・中国

FFIKRETOW/ISTOCK

<権威を振りかざすアメリカを横目に、多くの国々が「戦略的自律」を掲げるように、中国の言う「100年に1度の大変局」が現実になりつつある>

中国政府が正式に発表する文書にはしばしば「100年に1度の大変局」というフレーズが登場する。これはもともと習近平(シー・チンピン)国家主席の言葉だが、プロパガンダというよりは、世界秩序が幅広く変容しつつある現状を表すものとなりつつある。

この変容が目に見える形になっているのが、21世紀に入って以降アメリカが多くのリソースをつぎ込んできた地域──中東だ。

3月、イランとサウジアラビアが国交正常化で合意した際に仲介役を務めたのは中国だった。お株を奪われた格好のアメリカは目下、イランとの外交関係は断絶し、サウジアラビアとの関係もぎくしゃくしている。

「アメリカは威張り散らし、脅し、威嚇し、制裁し、海兵隊を送り、爆弾を落とすのに、説得の技を使うことはない」と、アメリカの元外交官チャス・フリーマンは言う。

フリーマンは1972年にリチャード・ニクソン大統領(当時)が訪中した際に首席通訳を務めた人物。その後、北京にアメリカ大使館が開設された際には首席公使となった。

フリーマンに言わせれば、アメリカの「外交的栄光の時代」はとっくの昔に終わっている。「アメリカの脅迫能力の衰退が起きた」と、彼は言う。「アメリカの世界に対する姿勢は、あたかも今も比類なき権威を持ち続けているかのようだ。冷戦の終わり頃の思い込みそのままに」

今では多くの国々がそれぞれにわが道を歩んでいる。いわゆる「戦略的自律」だ。戦略的自律はインドの非同盟主義外交の特徴であり、サウジアラビアのようにかつてはアメリカと緊密な関係にあった国々にも広がっている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も4月の訪中の後にこの言葉を使って話題となった。

駐サウジアラビア大使を務めたこともあるフリーマンは、「世界は変わりつつある。アメリカの外交政策が基本的に目指すのはトップの座を維持することだが、それは不可能だ。永遠にトップでいられる大国などない」と言う。

「パックス・アメリカーナ、つまりアメリカの世紀が約50年ほどで終わりを告げたというだけではない。欧州大西洋(の国々)が世界を支配した500年が終わったのだ」

中東の混乱と分裂を放り出す

中国はそうした変化をうまく利用できるポジションに以前から身を置いていた。「70年代終盤の改革開放以降、中国は相互の利益と敬意を基本に他国との関係を発展させ、深めてきた」と、中国の専門家で上海外国語大学中東研究所の範鴻達(ファン・ホンター)教授は本誌に語った。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7

ワールド

ロシアのミサイル「ICBMでない」と西側当局者、情

ワールド

トルコ中銀、主要金利50%に据え置き 12月の利下

ワールド

レバノン、停戦案修正を要求 イスラエルの即時撤退と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中