中東から始まったアメリカ外交の落日
THE AMERICAN CENTURY ENDS IN THE MIDDLE EAST
FFIKRETOW/ISTOCK
<権威を振りかざすアメリカを横目に、多くの国々が「戦略的自律」を掲げるように、中国の言う「100年に1度の大変局」が現実になりつつある>
中国政府が正式に発表する文書にはしばしば「100年に1度の大変局」というフレーズが登場する。これはもともと習近平(シー・チンピン)国家主席の言葉だが、プロパガンダというよりは、世界秩序が幅広く変容しつつある現状を表すものとなりつつある。
この変容が目に見える形になっているのが、21世紀に入って以降アメリカが多くのリソースをつぎ込んできた地域──中東だ。
3月、イランとサウジアラビアが国交正常化で合意した際に仲介役を務めたのは中国だった。お株を奪われた格好のアメリカは目下、イランとの外交関係は断絶し、サウジアラビアとの関係もぎくしゃくしている。
「アメリカは威張り散らし、脅し、威嚇し、制裁し、海兵隊を送り、爆弾を落とすのに、説得の技を使うことはない」と、アメリカの元外交官チャス・フリーマンは言う。
フリーマンは1972年にリチャード・ニクソン大統領(当時)が訪中した際に首席通訳を務めた人物。その後、北京にアメリカ大使館が開設された際には首席公使となった。
フリーマンに言わせれば、アメリカの「外交的栄光の時代」はとっくの昔に終わっている。「アメリカの脅迫能力の衰退が起きた」と、彼は言う。「アメリカの世界に対する姿勢は、あたかも今も比類なき権威を持ち続けているかのようだ。冷戦の終わり頃の思い込みそのままに」
今では多くの国々がそれぞれにわが道を歩んでいる。いわゆる「戦略的自律」だ。戦略的自律はインドの非同盟主義外交の特徴であり、サウジアラビアのようにかつてはアメリカと緊密な関係にあった国々にも広がっている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も4月の訪中の後にこの言葉を使って話題となった。
駐サウジアラビア大使を務めたこともあるフリーマンは、「世界は変わりつつある。アメリカの外交政策が基本的に目指すのはトップの座を維持することだが、それは不可能だ。永遠にトップでいられる大国などない」と言う。
「パックス・アメリカーナ、つまりアメリカの世紀が約50年ほどで終わりを告げたというだけではない。欧州大西洋(の国々)が世界を支配した500年が終わったのだ」
中東の混乱と分裂を放り出す
中国はそうした変化をうまく利用できるポジションに以前から身を置いていた。「70年代終盤の改革開放以降、中国は相互の利益と敬意を基本に他国との関係を発展させ、深めてきた」と、中国の専門家で上海外国語大学中東研究所の範鴻達(ファン・ホンター)教授は本誌に語った。