「ドルを超える日はまだ遠い」人民元を過大評価しなくていい理由について
A REALITY CHECK FOR THE RENMINBI
ドルの優勢が続く理由の1つは、アメリカが貿易大国であることに加え、外国人投資家がドル建て資産を預けられる非常に大きな流動的資本市場でもあることだ。
中国では資本規制のせいで、国内の金融市場の流動性ははるかに低い。そのため外国人投資家にとって、人民元は魅力的ではない。
理屈の上では、中国が資本規制を緩和すれば人民元の国際性を高められる。だがそれには、アメリカの金利や世界金融の動向の(往々にしてマイナスの)影響を被るという多大なコストが伴う。
しかも資本勘定の自由化を急ぐと、既存の金融のゆがみが悪化する恐れがある(中国では国内貯蓄が、必ずしも生産性の高い企業に回っていない)。そのため中国当局は、人民元の国際化より金融システムの安定を優先してきた。
ただし、人民元の国際化推進策はほかにもある。例えば外国との間で中央銀行間の通貨スワップ協定を結べば、国際企業や投資家にとって人民元のリスク軽減に役立つかもしれない。
加えてデジタル人民元を導入すれば、資本勘定の一部自由化を促せる可能性がある。国境を越えた金融取引を変動の少ない種類に限定し、必要ならばサーキットブレーカー(取引の一時中断措置)を発動すればいい。
不安定な短期資金の流入と、より安定した外国投資を分別できれば、中央銀行も資本規制を一部緩和し、金融資本の流れをより自由にする方向に傾くかもしれない。
中国は人民元を世界の基軸通貨にするために顕著な進歩を遂げてきたが、目標達成にはまだ遠い。たとえデジタル通貨で事実上の部分的資本勘定の自由化をもたらしても、資本規制の緩和をもっと進めなければドルの覇権は揺るがない。
SHANG-JIN WEI
コロンビア大学経営大学院教授(金融学・経済学)。アジア開発銀行(ADB)でチーフエコノミスト、世界銀行では汚職対策の政策・研究のアドバイザーなどを歴任した。