経済無知で「謎の世界観」を持つプーチンらKGB出身者たち 河東哲夫×小泉悠
THE END OF AN ENDLESS WAR
プーチンの後継者と目されたイワノフ(左)も「謎の世界観」の持ち主 MAXIM SHEMETOV-REUTERS
<制裁は効いていないとされていたが、ロシア経済は足元から崩れつつある。そもそもトップに君臨するスパイ出身の大統領は......。日本有数のロシア通である2人がウクライナ戦争について議論した>
※本誌2023年4月4日号および4月11日号に掲載の「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集、計20ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。聞き手は本誌編集長の長岡義博。
【動画で見る】ウクライナ戦争の「天王山」と知られざる爆破陰謀論(小泉悠×河東哲夫 対談)
――続いてロシア経済の話についてです。先ほど河東さんの話の中で、ロシアの国民にとってまだ戦争は遠いところにあるとおっしゃっていましたが、ロシア経済は今後持つのか。また欧米の制裁の影響はどれくらいあるのでしょうか。
■河東 その点はこの1年間ロシアと西側でずいぶん議論されてきて、制裁はあまり効いてない、というのが議論の大勢になっています。GDP成長率は昨年マイナス2.5%前後。もともと3%成長の予測だったから合計マイナス6%ぐらいということになっているが、生活にはまだそんなに響いてない。
ただ制裁の影響がないと思っていると、あに図らんや足元から崩れつつある。
1つは石油と天然ガスの値段がまた急低下しました。去年は1日5億ドル以上、石油とガスの収入があったんだけれども、それが1日3億4000万ドルぐらいになる。それから輸入が急増してきて貿易黒字が少なくなった。エネルギー価格低下によってまた貿易黒字が低下して、経常収支が昨年12月ぐらいにはほぼプラスマイナスゼロ。ロシアにとってはかなり危険ですよ。
今年の予算を見てみても、プーチンは盛んに新しいことをやると言っているのだけども、財源はこれまでの貯金を取り崩しているわけです。これまでの貯金というのは、石油とガス収入のうちの余った分を取り分けて、それを国民福祉基金と称しているんだけれども、これを取り崩す。
これがあと2年ぐらいでなくなるだろうと言われている。だから大統領選挙に向けて、バラマキができなくなりつつあるわけです。財政赤字も増えるだろうと思われている。
もう1つ、長期的に響くのは技術、テクノロジーです。ウクライナ戦争の前から西側はロシアに対して(技術流出を)絞っているんだけれども、冷戦時代のCOCOM(ココム、対共産圏輸出調整委員会)のような体制が戻ってきている。ロシアは軍の技術などをはじめ、ものすごく困ってくるだろうと思います。
もう1つは在外資産。在外の資産を西側が凍結しているということは、ロシアの金持ちたちにとってものすごく困るし、ロシアの中央銀行にとっても痛いわけです。
■小泉 西側の制裁って、ロシアの一般市民を困らせるということはおそらく最初から目的ではなくて、今おっしゃったようなロシアの財政能力、その中でもロシアの軍備プログラムに資金を提供している銀行に打撃を与えることを狙っている感じがします。あと、プーチン周辺の高官たちの個人資産。プーチンの権力基盤を揺るがせることが狙いだろうと思うんです。
それだけでプーチン政権が倒れるとか、戦争を諦めるわけではないかもしれませんけども、戦争を継続する能力に制約を加えるという効果は確かに見込めるのかなと。