『小川さゆり、宗教2世』、旧統一教会が崩壊させたひとつの家庭
この部分を引用するだけでも、旧統一教会によってひとつの家庭が崩壊してしまうさまが手に取るようにわかる。ちなみに「サタンに負けてしまった」などと言われることが予測できたため、結局この遺書を両親に見せることはできなかったそうだ。
さて、そんな著者はやがて、好きだった女性シンガーの影響を受け、自身も路上で歌を歌い始める。そのとき知り合ったのが、10月7日の記者会見でもさりげなく著者をサポートしていたご主人である。
私は彼に自分の思いや経験を打ち明けました。
2世として生まれてきたこと、この世がサタンの世界だと教えられてきたこと、男の人と付き合うことに罪悪感があること......。
夫はそれでも付き合ってほしいと言ってくれました。
夫は私と違って考えがぶれることがなく、相談に乗ってもらえるととても安心できました。統一教会のことも、私の話を偏見を持たずに聞いてくれました。(172ページより)
好きな女性ができ、その両親に会うとなれば、多少なりとも余計な気遣いをしてしまいがちである。なにしろ、親に気に入られたいという思いは間違いなくあるのだから。しかし著者のご主人は、「それとこれとは話が別」であることをしっかり理解しており、話が宗教問題に及んだとき、著者の父親に対してはっきりこう伝えている。
「そういう考えがあってもいいと思いますが、私たちは無宗教だし、教会での結婚式を受けようとは思っていません」(175〜176ページより)
この男性と出会って、著者の人生は大きく変わったのだろう。結局のところ、人はいちばん身近な人に助けられるものであり、いちばん身近な人とこそ理解し合えるものなのかもしれない。
『小川さゆり、宗教2世』
小川さゆり 著
小学館
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。