最新記事
BOOKS

『小川さゆり、宗教2世』、旧統一教会が崩壊させたひとつの家庭

2023年4月10日(月)19時20分
印南敦史(作家、書評家)
『小川さゆり、宗教2世』

Newsweek Japan

<死ぬまで統一教会から離れられない――。顔を出しての記者会見が話題になった、宗教2世の女性。自らがかつて書いた遺書まで記されたその自著には、親や教会に裏切られた苦悩が綴られている>

安倍晋三元首相の襲撃事件を契機として世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の実態が浮き彫りになり、それに伴って複数の「宗教2世」が声を上げることとなった。

だが実際のところ、宗教2世たちにとっては、自身の出自を明らかにすること自体がつらいことであったはずだ。

にもかかわらず、『小川さゆり、宗教2世』(小学館)の著者である小川さゆりさんは、マスコミの最前線に顔を出して真実を明かすことを厭わなかった。その結果、2022年10月7日に行われた日本外国特派員協会での記者会見のさなかに、会見中に突然会見中止を求める両親のメモが舞い込み、心かき乱される様子を見せていたことは記憶に新しいところだ。


 生まれてから20歳頃までは、第二の家族のような存在で、ずっと自分の居場所だと思っていた統一教会。
 ――死ぬまで統一教会から離れない。
 教祖である文鮮明(ムンソンミョン)が亡くなった数ヶ月後、教会で配られる決意を書く紙に、私はそのように記していました。統一教会が学生時代の自分のすべてであり、自分の存在意義といっても過言ではありませんでした。
 実際には統一教会が多くの被害者を生み出し、いまも被害を認めていない団体であることは、十分にわかっていたつもりでした。
 しかし、いざ自分がこうして、よくもこんな酷いことを思いついたなというような理屈で、会見を中止させられようとしている事実に直面し、この団体の真の姿を思い知らされたように感じました。(「はじめに」より)

この記述からもわかるように、著者が物心ついたときにはすでに、統一教会は"そこにあって当然"の存在だった。しかし成長していくに伴って、教会にさまざまな矛盾や疑問を感じるようになる。

本書にはそこへ至るまでの経緯が克明に書かれているわけだが、例えば男女の身体的な接触が禁止されているにもかかわらず男性班長からセクハラを受けるなど、明らかにおかしいとしか思えないことの連続である。

かくして信仰を捨てた著者は、家を出てひとり暮らしを始める。とはいえ、それまで20年ものあいだ、教義を刷り込まれてきた身である。うまく社会に順応できず、よくわからない不安と背中合わせの生活を送ることになる。

ことさら大きな不安に襲われたのは、ひとり暮らしを始めて2カ月ほど経ったある日のこと。2時間も身がよじれるぐらいの吐き気に苦しみ、過呼吸のような症状が出て、全身ががたがた震えたという。3時間経っても終わりが見えなかったため救急車を呼び、神経内科に1週間近く入院することになった。

ただし、そういった症状以上に衝撃的なのは、当時のことを綴った以下の記述かもしれない。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中