「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく

INTO THE SOUTH PACIFIC

2023年3月10日(金)13時30分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

また、あるインタビューでナラパトは、過去10年ほどの間に中国が他国も領有権を主張する南シナ海への軍事的プレゼンスを強化したと指摘。ゆっくりと時間をかけて少しずつ影響力を拡大するという「サラミ」戦術で、中国はこの地域の実質的な支配権を手にした。これは、ほかの国々から「通行証を与えられた」ようなもので、「そして今度は南太平洋へと下ってきたわけだ」と、ナラパトは本誌に語った。

中国とソロモン諸島の間の安全保障協定は公にはなっていない。だが昨年4月、中国政府の報道官は「2つの主権・独立国家間の通常の人的交流と協力」の協定だと述べてその存在を認めている。リークされた協定の草稿によれば、ソロモン諸島は中国軍に警察、武装警察、軍の部隊、海軍の船舶を送り込むよう「依頼」することができるという。そうなれば中国政府はソロモン諸島の機密情報にアクセスできるようになるし、人民解放軍は法的な免責特権を得ることになるだろう。

バヌアツは、中国と安全保障協定を結んだ事実はないとしている。だが中国外務省によれば、6月に王毅(ワン・イー)外相(当時)がバヌアツを訪問した際に両国は「相互の政治的信頼と戦略的協力を深めることで幅広い合意に至り」、技術、経済、海洋、医療などに関する協定が結ばれたという。

王は昨年、南太平洋島しょ国10カ国を訪問した(実際に足を運んだのは8カ国で、残り2カ国はオンラインでだが)。これも中国政府がこの地域を重視していることの表れだ。

米安全保障政策研究所のニューシャムに言わせれば、中国はこの地域に広く網をかけており、ビジネスとしての投資や融資を足掛かりにして安全保障協定を結んでいる。そして協定は将来的な軍事基地の確保につながるかもしれない。

「中国はさまざまな所に一度に種をまいて、うまくいきそうな場所を探す傾向がある。競馬に行って全部の馬に賭けるようなものだ」と彼は言う。「まず最初に商業的に進出し、そこから政治的な影響力を構築し、3つ目に来るのが軍事だ。(相手国に)うまく入り込むための手段として、『警察の』装備だとか訓練だとか、地元警官や場合によっては治安担当者向けの『中国国内での研修』を提供したりすることが多い」と彼は電子メールで述べた。

中国のステルスな動きに注意

中国国営新華社通信によれば、11月末に南太平洋島しょ国の6カ国の警察関係の高官がオンラインで、中国の大物政治家である王小洪(ワン・シャオホン)公安相と面談した。これも中国が南太平洋で影響力を強めているアピールだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中