「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく
INTO THE SOUTH PACIFIC
ハンバントタ港に加え、中国の足場になり得るとしてインドが警戒するのは、インドの南約1600キロ沖合に浮かぶディエゴガルシア島だ。
大英帝国はかつて自国の植民地であるモーリシャスからチャゴス諸島を切り離し、直轄領とした。そのチャゴス諸島の最大の島であるディエゴガルシアには英軍との協定の下で今も米軍が基地を置いている。
19年にハーグの国際司法裁判所が、イギリスがチャゴス諸島を自国領に組み入れたのは「違法」であるとの裁定を下し、英政府は昨年11月、今後のチャゴス諸島の処遇をモーリシャスと協議すると発表した。問題はモーリシャスが中国と自由貿易協定(FTA)を締結していることだ。
モーリシャスが経済的に中国への依存を深めるなか、イギリスがチャゴス諸島を手放せば、ディエゴガルシア島から米軍が追い出されて、中国軍が居座りかねない──インド・メディアはそんな懸念を伝えている。
広大な南太平洋に目を付けたのは中国だけではない。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなども進出し、利権を確保してきた。これらの国々は今、中国の動きを横目に長らくなおざりにしてきた島しょ国との関係強化に乗り出している。オーストラリアがバヌアツと安全保障協定を結んだのもその一例だ。豪ペニー・ウォン外相は記者会見で、ソロモン諸島と中国の密約とは対照的に、われわれは協定締結を堂々と発表すると胸を張った。
アメリカのカマラ・ハリス副大統領は7月、南太平洋地域を訪問したが、これは米政府高官としては珍しいことだった。ハリスは各国の指導者らに対し、この地域の島しょ国は本来あるべき「外交面での注目と支援を受けてこなかったかもしれない」と述べるとともに「われわれはそれを変えていく所存だ」と伝えた。また秋にはアントニー・ブリンケン国務長官が、気候変動などさまざまな問題における「回復力をより高める」ことを目的に、米・太平洋島しょ国首脳会議を主宰した。
サラミ戦術で影響力を拡大
こうした動きについては、規模が小さすぎるとか遅きに失したとか、植民地に対する宗主国のような上から目線の態度であり、十分な効果は望めないと言う人もいる。「オーストラリアもニュージーランドも、島しょ国の指導教官か家庭教師にでもなった気でいる」と、マニパル大学(インド)のマダブ・ナラパト教授(地政学)は書いている。「この地域の島しょ国の大半で自分たちに代わって共産主義中国が勢力を伸ばしていることについても、両国は大した懸念を示していないように思える」