「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく

INTO THE SOUTH PACIFIC

2023年3月10日(金)13時30分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

ハンバントタ港に加え、中国の足場になり得るとしてインドが警戒するのは、インドの南約1600キロ沖合に浮かぶディエゴガルシア島だ。

大英帝国はかつて自国の植民地であるモーリシャスからチャゴス諸島を切り離し、直轄領とした。そのチャゴス諸島の最大の島であるディエゴガルシアには英軍との協定の下で今も米軍が基地を置いている。

19年にハーグの国際司法裁判所が、イギリスがチャゴス諸島を自国領に組み入れたのは「違法」であるとの裁定を下し、英政府は昨年11月、今後のチャゴス諸島の処遇をモーリシャスと協議すると発表した。問題はモーリシャスが中国と自由貿易協定(FTA)を締結していることだ。

モーリシャスが経済的に中国への依存を深めるなか、イギリスがチャゴス諸島を手放せば、ディエゴガルシア島から米軍が追い出されて、中国軍が居座りかねない──インド・メディアはそんな懸念を伝えている。

広大な南太平洋に目を付けたのは中国だけではない。アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなども進出し、利権を確保してきた。これらの国々は今、中国の動きを横目に長らくなおざりにしてきた島しょ国との関係強化に乗り出している。オーストラリアがバヌアツと安全保障協定を結んだのもその一例だ。豪ペニー・ウォン外相は記者会見で、ソロモン諸島と中国の密約とは対照的に、われわれは協定締結を堂々と発表すると胸を張った。

アメリカのカマラ・ハリス副大統領は7月、南太平洋地域を訪問したが、これは米政府高官としては珍しいことだった。ハリスは各国の指導者らに対し、この地域の島しょ国は本来あるべき「外交面での注目と支援を受けてこなかったかもしれない」と述べるとともに「われわれはそれを変えていく所存だ」と伝えた。また秋にはアントニー・ブリンケン国務長官が、気候変動などさまざまな問題における「回復力をより高める」ことを目的に、米・太平洋島しょ国首脳会議を主宰した。

サラミ戦術で影響力を拡大

こうした動きについては、規模が小さすぎるとか遅きに失したとか、植民地に対する宗主国のような上から目線の態度であり、十分な効果は望めないと言う人もいる。「オーストラリアもニュージーランドも、島しょ国の指導教官か家庭教師にでもなった気でいる」と、マニパル大学(インド)のマダブ・ナラパト教授(地政学)は書いている。「この地域の島しょ国の大半で自分たちに代わって共産主義中国が勢力を伸ばしていることについても、両国は大した懸念を示していないように思える」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、景気支援に利下げ継続 夏までに物価目標達成

ワールド

米シェブロン、「アメリカ湾」の名称使用 四半期決算

ワールド

米FAA、首都空港付近のヘリ飛行を制限 墜落事故受

ビジネス

ロシア、米の対BRICS関税警告を一蹴 「共通通貨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌の育て方【最新研究】
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 10
    「全員くたばれ」キスを阻んで話題...メラニア夫人の…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中