「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく

INTO THE SOUTH PACIFIC

2023年3月10日(金)13時30分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

一方で、中国企業は国外の民間の港湾を精力的に買いあさり、それらの港湾を中国海軍の艦艇も使用している。中国海軍は軍事目的に特化した港湾に加え、軍民共用の港湾を活用して、世界中の海に拠点網を構築しようとしているのだ。

米国防総省が昨年発表した報告書は、中国海軍の基地が建設される可能性が高い地点を17カ所挙げた上で、「カンボジアのリアム海軍基地にある人民解放軍の軍事施設は、同軍がインド太平洋に進出するための最初の国外基地となるだろう」と述べている。これに続く中国海軍の国外基地の大半は東南アジア、中東、アフリカに建設されるが、南太平洋にもいくつか建設されることになると、この報告書は予想している。

アメリカ同様、日本も中国の国外での軍事的活動に神経をとがらせている。日本政府は昨年12月、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を改定。中国が「十分な透明性を欠いたまま、軍事力を広範かつ急速に増強」し「東シナ海と南シナ海等における、力による一方的な現状変更の試みを強化」していることは「これまでにない最大の戦略的な挑戦」だとして、これに対応するため防衛費をGDP比2%に増額する方針を明らかにした。

日本は東シナ海の尖閣諸島を固有の領土としているが、中国も領有権を主張。周辺海域で中国海警局の船舶や中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船がにらみ合う事態が頻発している。日本の防衛関係者は、中国の軍艦が津軽海峡など日本の海峡を通過して太平洋やオホーツク海に向かう行為にも警戒を募らせている。

インドも中国の動きを注視している。両国はヒマラヤ地方における国境線の画定で対立しており、血なまぐさい衝突を繰り返してきた。

人口約14億人と、中国とほぼ拮抗する大国であるインドは「南太平洋で中国に対抗できる唯一の国」だと、米保守系シンクタンク・民主主義防衛財団のクリオ・パスカルは言う。

欧米勢は反転攻勢を強めるが

昨年8月、中国海軍の衛星追跡船・遠望5号がインドの南端沖のスリランカのハンバントタ港に入港した。この港は、スリランカがデフォルト(債務不履行)に陥ったため、借金のカタとして中国の国有企業に99年間リースされている。そこに中国の軍艦が入港したため、インドの玄関先に中国の軍港か、少なくとも軍民共用港ができるのではないかと大騒ぎになった。11月にはインド軍の演習の最中に遠望6号がインド太平洋を航行したため(ハンバントタ港には停泊しなかったが)、インドの防衛関係者はまたもや気色ばんだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中