「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく
INTO THE SOUTH PACIFIC
一方で、中国企業は国外の民間の港湾を精力的に買いあさり、それらの港湾を中国海軍の艦艇も使用している。中国海軍は軍事目的に特化した港湾に加え、軍民共用の港湾を活用して、世界中の海に拠点網を構築しようとしているのだ。
米国防総省が昨年発表した報告書は、中国海軍の基地が建設される可能性が高い地点を17カ所挙げた上で、「カンボジアのリアム海軍基地にある人民解放軍の軍事施設は、同軍がインド太平洋に進出するための最初の国外基地となるだろう」と述べている。これに続く中国海軍の国外基地の大半は東南アジア、中東、アフリカに建設されるが、南太平洋にもいくつか建設されることになると、この報告書は予想している。
アメリカ同様、日本も中国の国外での軍事的活動に神経をとがらせている。日本政府は昨年12月、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を改定。中国が「十分な透明性を欠いたまま、軍事力を広範かつ急速に増強」し「東シナ海と南シナ海等における、力による一方的な現状変更の試みを強化」していることは「これまでにない最大の戦略的な挑戦」だとして、これに対応するため防衛費をGDP比2%に増額する方針を明らかにした。
日本は東シナ海の尖閣諸島を固有の領土としているが、中国も領有権を主張。周辺海域で中国海警局の船舶や中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船がにらみ合う事態が頻発している。日本の防衛関係者は、中国の軍艦が津軽海峡など日本の海峡を通過して太平洋やオホーツク海に向かう行為にも警戒を募らせている。
インドも中国の動きを注視している。両国はヒマラヤ地方における国境線の画定で対立しており、血なまぐさい衝突を繰り返してきた。
人口約14億人と、中国とほぼ拮抗する大国であるインドは「南太平洋で中国に対抗できる唯一の国」だと、米保守系シンクタンク・民主主義防衛財団のクリオ・パスカルは言う。
欧米勢は反転攻勢を強めるが
昨年8月、中国海軍の衛星追跡船・遠望5号がインドの南端沖のスリランカのハンバントタ港に入港した。この港は、スリランカがデフォルト(債務不履行)に陥ったため、借金のカタとして中国の国有企業に99年間リースされている。そこに中国の軍艦が入港したため、インドの玄関先に中国の軍港か、少なくとも軍民共用港ができるのではないかと大騒ぎになった。11月にはインド軍の演習の最中に遠望6号がインド太平洋を航行したため(ハンバントタ港には停泊しなかったが)、インドの防衛関係者はまたもや気色ばんだ。