「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく

INTO THE SOUTH PACIFIC

2023年3月10日(金)13時30分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

230214p18_CTM_MAP_01.jpg

GETTY/NEWSWEEK

米太平洋海兵隊の予備役作戦参謀・情報参謀を歴任し、現在は米安全保障政策研究所の上級研究員グラント・ニューシャムは、「中国は地図全体を見てグローバルに考えている」と指摘する。「中南米の両側、アフリカの両側、インド洋の西側に港と飛行場を建設している。アゾレス諸島やグリーンランドなど、ほかの多くの場所も調べている」

「その構想は、(中国軍が)アクセスできる港や飛行場網を築き、基地もいくつか置くというもの。つまりアメリカと同じようなインフラと、同じようにグローバルに展開する軍隊を持とうとしている」

17年8月、中国はアフリカ東部のジブチ共和国の首都ジブチ市近郊のドラレ港のそばに初めての、そして今のところ唯一知られている人民解放軍の国外基地を開設した。

当初、中国はドラレ港の位置付けをソマリア沖で海賊を取り締まる部隊のための「兵站施設」と説明していた。だが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今やこの基地は中国海軍陸戦隊の兵士を何千人も収容でき、地下には約2万3000平方メートルの施設があるという。米軍やフランス軍、日本の自衛隊もジブチに拠点を置いている。

米保守系シンクタンクのランド研究所が発表した中国の国外基地計画に関する報告書の執筆者の1人、スティーブン・ワッツによると、「通信基地や兵站施設など小規模の軍事施設を国外に設けるのはよくあること」だが、ジブチの中国軍基地のような大規模な施設を国外に建設し運用しているのは「今のところアメリカだけだ」という。「中国軍が本格的に国外進出に乗り出せば、当然ながら波風が立ち」、米中どちらも望まない一触即発の緊張状態に陥りかねないと、ワッツは警告する。

ランド研究所の報告書は、中国海軍の基地が建設される可能性がある場所を24カ所挙げ、中国海軍の国外進出は実現するかどうかではなく、いつ実現するかを問うべきだ、と述べている。この報告書は、中国軍の国外基地の最有力候補地としてカンボジアのリアムやパキスタンのグワダルを挙げている。カンボジアとパキスタンは事実上、中国の同盟国で、中国の一帯一路構想の中核を成す。

日本とインドは警戒モード

中国の狙いを知るにはカンボジアのリアム海軍基地をめぐる動きが参考になる。カンボジアと中国が密約を結び、中国海軍がこの基地を使用できることになったと、米メディアが報じたのは2019年のこと。両国は密約の存在を否定したが、何らかの取引が成立したのは明らかだ。昨年6月には両国の代表が出席して、リアム海軍基地の拡張工事の着工式が大々的に行われた。工事を手がけるのは中国企業で、アメリカがかつてカンボジアのために建設した小規模の施設は早々に撤去され、軍艦など大型の艦船が入港できるよう、まずは海底の浚渫(しゅんせつ)工事が始まった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:ECB、見極めにくい利下げペース 関税な

ビジネス

アングル:米高関税対策でカナダ牛が減少加速、米で牛

ビジネス

為替相場の実質賃金への影響を懸念=三村財務官

ワールド

中国タピオカティー蜜雪氷城、香港市場に上場 株価4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性【最新研究】
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「トランプに感謝」「米国の恥」「ゼレンスキーは無礼」
  • 4
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 5
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 8
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 9
    「朝に50gプラスするだけ」で集中力と記憶力が持続す…
  • 10
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中