「南進」を始めた中国の隠せない野心──本格的な海外基地の展開をにらむ...長期戦略をひもとく

INTO THE SOUTH PACIFIC

2023年3月10日(金)13時30分
ディディ・カーステンタトロー(ジャーナリスト)

230214p18_CTM_02.jpg

ポートビラの港に停泊するクルーズ船。バヌアツの主力産業である観光業はコロナ禍とサイクロンの直撃を受けた MARIO TAMA/GETTY IMAGES

ソロモン諸島と安全保障協定

しかし中国の指導部は、建国100年を迎える2049年までに「世界クラスの」軍隊を整備すると語っている。さらに国防の概念として、世界第2の経済大国の「国外での権益を守る」ことを明言している。

中国の軍事科学院の戦略家、閻文虎(イエン・ウエンフー)は19年に中国軍のサイト「チャイナ・ミリタリー・オンライン(中国軍網)」で、「中国は主要国から大国に移行する重要な段階にある」と述べている。「近年、中国の国益は国外に拡大し伸展している。人民解放軍は国外で国益を拡大するプロセスと緊密に連携し、より広い空間で多様な軍事任務を遂行する能力を高めなければならない」

中国は既に、世界最大の海軍と、いくつかの点で世界最大の陸軍を有している。米国防総省は22年の報告書で、中国は「海軍、空軍、地上軍の戦力展開の支援」を全体の目標として、バヌアツおよび近隣のソロモン諸島で「軍事兵站施設」を獲得するために、「おそらく既に申し入れを行っている」と分析している。

今回、バヌアツ政府(昨年11月から数週間、サイバー攻撃を受けた)にコメントを求めたが回答はなかった。中国の在バヌアツ大使館と北京の外務省からも回答はなかった。一方、ソロモン諸島は自国領内に中国の軍事基地が置かれることはないとしているが、中国はソロモン諸島と安全保障協定を締結したことは認めている。

バヌアツはいくつかの意味で「世界の端」だ。火山岩とサンゴが露頭した約65の有人島が点在し、フィジー、ソロモン諸島など近隣諸国から数百キロ離れている。

しかし、第2次大戦中に明らかになったように、太平洋における戦略的な重要性は疑いの余地がない。バヌアツのエスピリトゥサント島には戦時中、真珠湾を除いて太平洋地域で最大の米軍基地があり、ソロモン諸島のガダルカナル島の重要な後方拠点となった。

終戦後、連合国は太平洋を南北に貫く3つの「列島線」から成る新しい安全保障体制を構築した。第1列島線は日本、台湾、フィリピンを結んで南シナ海に延び、第3列島線はハワイやトンガを結ぶ。そして太平洋諸島の多くの国は、小笠原諸島からグアム、パラオを結ぶ第2列島線のすぐ外側に位置する。

後から台頭した中国は、これらの列島線に縛られているように感じている。近年はその鎖を断ち切ろうとするだけでなく(台湾に対する領有権の主張もその一環だ)、自分たちが必要だと思う場所を世界中で確保しようとしている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、台湾への武器売却承認 ハイマースなど過去最大の

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中