最新記事

地政学

「欧米人はどう見られているかを真剣に考えるべき」中国人研究者から見た、ウクライナ戦争と世界地図

HOW CHINA SEES IT

2023年3月3日(金)12時00分
マーク・レナード(欧州外交評議会事務局長)
香港

香港の食堂で軍事侵攻開始のニュースを見守る人々(昨年2月24日) AP/AFLO

<「侵略戦争ではなく、国境線の見直し」「覇権国家アメリカの終焉」「新型コロナより大したことない」...。対ロ制裁を支持しないグローバルサウスの視点とは?>

ロシアのウクライナ侵攻は、ヨーロッパを中東化する一連の紛争の始まりにすぎないのか。ある中国人研究者(本人の希望で匿名)の推論は、ヨーロッパの地政学的秩序を変えている戦争について非欧米人の見方がいかに違うかを物語っていた。

中国人研究者たちはウクライナ戦争について、ロシアではなくNATO拡大に非があると考えがちなだけでなく、中心的な戦略的前提の多くも欧米とは正反対だ。

欧米人はウクライナ戦争を歴史の転換点とみているが、中国人からみれば朝鮮半島やベトナムやイラクやアフガニスタンで起きた戦争と同じ「干渉戦争」にすぎない。彼らにとって唯一の重要な違いは、今回は干渉しているのが欧米ではない点だ。

さらにヨーロッパでは今回の戦争がアメリカの国際舞台復帰を示しているとの見方が多いが、中国の識者はポスト・アメリカ時代の到来を裏付けるものとみる。アメリカの覇権の終焉が生んだ力の真空をロシアが埋めようとしている、というわけだ。

欧米人がルールに基づく国際秩序に対する攻撃と考えている状況を、中国の研究者たちは多極化した世界の到来と考えている。

アメリカの覇権が終わり、地域規模・準地域規模のさまざまなプロジェクトが可能になる世界だ。ルールに基づく秩序は常に正統性に欠けていると彼らは主張する。欧米の列強がルールをつくり、(コソボやイラクでやったように)自分たちの都合で変える、と。

ここが中東との類似点だ。前述の中国人研究者はウクライナの状況を主権国家間の侵略戦争ではなく、植民地時代後に引かれた国境線の見直しと捉える。中東各国も第1次大戦後に欧米が引いた国境線を疑問視している。

「アメリカの最後の悪あがき」

だが最も顕著な類似点は、ウクライナ戦争が中国では代理戦争とみられていることだ。シリアやイエメンやレバノンの戦争と同様、ウクライナの戦争も大国に扇動され利用されてきた。

前述の中国人研究者によれば、最大の受益者はロシアやウクライナやヨーロッパではなくアメリカと中国で、両国にとってウクライナ戦争は米中対立の中の代理戦争だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税受けベトナムに生産移転も、中

ビジネス

アングル:西側企業のロシア市場復帰進まず 厳しい障

ワールド

プーチン大統領、復活祭の一時停戦を宣言 ウクライナ

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪肝に対する見方を変えてしまう新習慣とは
  • 3
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である
  • 4
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 5
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 10
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 9
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中