摘発すべきはギャングとエリート──国家を食い物にしてハイチを「崩壊国家」に追い込む悪い奴らの実態
HAITI’S HOMEGROWN ILLS
典型的な密輸ルートは、アメリカ(特に銃規制が甘い州)で代理人を介して購入された銃器が、南フロリダからポルトープランスや北部の港町ポルドペーに運ばれる。
海路がほとんどだが、隣国ドミニカ共和国から陸路で入ってくることもある。密輸品が麻薬や現金の場合は、空路で運ばれてくることもある。
麻薬の密輸もギャングの資金源になっていて、その稼ぎで彼らは重火器を購入している。ハイチは長年、コカインと大麻の密輸ルートの重要な中継地として知られ、時にはヘロインとアンフェタミンも流入する。
これらの違法薬物は通常、船か飛行機で持ち込まれ、小分けにして陸路でドミニカ共和国に運ばれる。
ハイチを経由するコカインの大半はコロンビア産で、最終的に北米と西ヨーロッパに向かうとみられる。
大麻のほうは主にジャマイカ産で、ドミニカ共和国に運ばれ、旅行者の旺盛なニーズを満たすほか、量はそれより少ないものの北米と西ヨーロッパにも運ばれる(大麻は今では多くの国や地域で当局の規制下で流通するか完全に合法化されているが、無許可の取引が違法であることに変わりはない)。
押収品のデータからハイチに流入する麻薬はそれまでにバハマ、コスタリカ、パナマ、英領タークス・カイコス諸島、ベネズエラを経由しているとみられる。ハイチ税関の推定では押収量は自国を経由する麻薬の1割足らずにすぎない。
長年に及ぶ政府の機能不全のせいで、ハイチの治安機関は弱体化し、ギャングに全く歯が立たない。国家警察も税関も、国境警備隊と沿岸警備隊も、外部からの大規模な支援なしには、犯罪集団そのものはもとより、武器と麻薬の密輸取り締まりすら満足にできない。
それどころか治安当局者の中には武器弾薬をギャングに横流しする者までいる。昨年7月には通関手続きなどを行うカスタムブローカーが武器密輸に関与した容疑で逮捕された。
人員も装備も乏しい治安機関
ハイチの警察は人手不足が深刻だ。人員は約1万4000人で、常時稼働しているのは9000人前後。住民1000人に対する警察官の数は世界最低レベルの1.6人にすぎない(ドミニカ共和国は3.3人)。国境警備隊(隊員は全土で294人)、麻薬捜査官(317人)、沿岸警備隊(181人)も人的・物的資源が不足しまともに任務を遂行できない。
おまけに治安当局者がギャングに襲撃される事件が増加の一途をたどり、今年1月だけでも18人が殺された。最近では宣教師を誘拐し地元の警察署を破壊した疑いが持たれている犯罪集団「クラゼ・バリエ」が主導したとみられる警官襲撃事件が発生。警官とその家族はおちおち眠れない日々を過ごしている。