最新記事

ハイチ

摘発すべきはギャングとエリート──国家を食い物にしてハイチを「崩壊国家」に追い込む悪い奴らの実態

HAITI’S HOMEGROWN ILLS

2023年3月2日(木)15時02分
ロバート・マガー(政治学者)

230307p50_HIC_02.jpg

ギャングに殺された同僚のひつぎを運ぶ警官 GUERINAULT LOUISーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

典型的な密輸ルートは、アメリカ(特に銃規制が甘い州)で代理人を介して購入された銃器が、南フロリダからポルトープランスや北部の港町ポルドペーに運ばれる。

海路がほとんどだが、隣国ドミニカ共和国から陸路で入ってくることもある。密輸品が麻薬や現金の場合は、空路で運ばれてくることもある。

麻薬の密輸もギャングの資金源になっていて、その稼ぎで彼らは重火器を購入している。ハイチは長年、コカインと大麻の密輸ルートの重要な中継地として知られ、時にはヘロインとアンフェタミンも流入する。

これらの違法薬物は通常、船か飛行機で持ち込まれ、小分けにして陸路でドミニカ共和国に運ばれる。

ハイチを経由するコカインの大半はコロンビア産で、最終的に北米と西ヨーロッパに向かうとみられる。

大麻のほうは主にジャマイカ産で、ドミニカ共和国に運ばれ、旅行者の旺盛なニーズを満たすほか、量はそれより少ないものの北米と西ヨーロッパにも運ばれる(大麻は今では多くの国や地域で当局の規制下で流通するか完全に合法化されているが、無許可の取引が違法であることに変わりはない)。

押収品のデータからハイチに流入する麻薬はそれまでにバハマ、コスタリカ、パナマ、英領タークス・カイコス諸島、ベネズエラを経由しているとみられる。ハイチ税関の推定では押収量は自国を経由する麻薬の1割足らずにすぎない。

長年に及ぶ政府の機能不全のせいで、ハイチの治安機関は弱体化し、ギャングに全く歯が立たない。国家警察も税関も、国境警備隊と沿岸警備隊も、外部からの大規模な支援なしには、犯罪集団そのものはもとより、武器と麻薬の密輸取り締まりすら満足にできない。

それどころか治安当局者の中には武器弾薬をギャングに横流しする者までいる。昨年7月には通関手続きなどを行うカスタムブローカーが武器密輸に関与した容疑で逮捕された。

人員も装備も乏しい治安機関

ハイチの警察は人手不足が深刻だ。人員は約1万4000人で、常時稼働しているのは9000人前後。住民1000人に対する警察官の数は世界最低レベルの1.6人にすぎない(ドミニカ共和国は3.3人)。国境警備隊(隊員は全土で294人)、麻薬捜査官(317人)、沿岸警備隊(181人)も人的・物的資源が不足しまともに任務を遂行できない。

おまけに治安当局者がギャングに襲撃される事件が増加の一途をたどり、今年1月だけでも18人が殺された。最近では宣教師を誘拐し地元の警察署を破壊した疑いが持たれている犯罪集団「クラゼ・バリエ」が主導したとみられる警官襲撃事件が発生。警官とその家族はおちおち眠れない日々を過ごしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 9
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 10
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中