武装集団の州知事ら9人殺害事件、背景に政敵の存在? 地方政府関係者暗殺続くフィリピン
テベス前知事の陣営は中央選管の決定に不服を申し立てたが2023年2月に最高裁はその訴えを退ける決定を下した。それ以降デモガ知事には脅迫が相次いでいたという。
こうした経緯から今回のデモガ知事暗殺の背後には、知事選を巡って争っていたテベス前知事陣営が何らかの関係があるとの見方が有力となっている。
殺害されたデモガ知事の妻でパンプローナ市のジャニス・デモガ市長は「夫に相応しい正義が行われることを期待する」と述べるとともに「犯行の背後にいる首謀者を明らかにするべきだ」として今回の事件が政治的事件であることを示唆した。
マルコス大統領も「卑劣で凶悪な犯罪の容疑者に司法の裁きを受けさせるまで政府は休むことはない。容疑者らは逃走しても逃げ切れないことは明らかであり、すぐに投降することがベストである」とする声明を発表した。
デモガ知事は殺害されたとき、自宅で現金給付事業の受給者である住民の訪問を受けて対応している最中で、住民になかにも死傷者が出ているという。
相次ぐ地方政府関係者への襲撃、殺害
フィリピンでは最近地方自治体の首長や関係者などへの襲撃、殺害事件が相次いでいる。今回のデモガ知事の暗殺を含めるとこの1カ月間で4件の事件が発生していると地元メディアは伝え、危機感が高まっている。
2月17日、フィリピン・ミンダナオ島南西部の南ラナオ州のマミンタル・アディオン州知事が乗った車列が正体不明の男らの襲撃を受け、アディオン知事は負傷したものの同行していた警察官4人が殺害された。
また2月19日にはルソン島北東部カガヤン州アパリ町のロメル・アラメダ副町長の一行が乗ったバンが走行中、正体不明の武装集団に襲撃され副町長ら6人が殺害されている。
さらに2月22日には南部ミンダナオ島中部の南マギンダナオ州ダトゥ・モンタワル市のオト・モンタワル市長を乗せた車が移動中に正体不明の武装した2人の男に待ち伏せ攻撃を受けた。オト市長は臀部と左腕に銃撃を受けたものの一命は取り留めたという。
このようにフィリピンでは地方自治体の首長や幹部、関係者に対する襲撃事件が相次ぐ事態になっており、ベンジャミン・アバロス内務相は「首謀者が投獄されることを確実にするためあらゆることを行う準備がある」と述べて徹底的捜査を指示した。
さらに比自治体連合のルイス・シンソン名誉会長は「悲しい日である。正義が一日も早く実現されることを祈る。知事のご遺族に心よりの哀悼を表明します」とデモガ知事の死を悼んだ。
デモガ知事の死に伴い4日夜、カルロ・ホルヘ・ジョアン・レイエス副知事が後任の東ネグロス州知事として宣誓就任している。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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