成田氏「集団自決」発言から考える、安楽死をめぐる日本の現在地
加えて、日本が安楽死合法化に向けた議論に舵を切る時、死刑制度が試金石になるだろう。
死刑囚が安楽死を求めたらそれを許すのか。生死の自己決定権の究極的な遂行と言っていい安楽死と、それを根こそぎ剥奪することで極刑とする死刑は両立するのか。安楽死が権利ならば、平等に享受できるものでなければならず、死刑囚は例外とあれば整合性に欠く。
現に、カナダ、米国諸州、欧州諸国と、安楽死が許されている全ての地域で、死刑は廃止もしくは事実上停止されている。90カ国が国連のいわゆる「死刑廃止条約」を批准しており、130の国で廃止が実現している。国際社会では、死刑は人間の尊厳を損なう制度だと認識されているからだ。
以上のことから、日本は安楽死を議論の俎上(そじょう)に載せるほど人権国家として成熟していないと筆者は考える。社会保障費削減策としての安楽死解禁、「安楽死の強制」などという言説が飛び出し、こうした発言をメディアが静観する現状がそれを物語っているのではないか。
[筆者]
和田香織
カウセリング心理学者。マギル大学にて博士号取得(PhD)、2016年カルガリー大学教育学部着任。Associate Professor。カナダの高校、病院、地域精神医療機関、大学学生相談室、先住民コミュニティなどで心理臨床の実践を積む。研究分野は死生学、多様性と社会公正、フェミニズム、心理臨床教育など。
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