最新記事

核兵器

韓国核武装「890計画」の幻

Nukes in the South, Too?

2023年2月27日(月)12時30分
ガブリエラ・ベルナル(朝鮮半島情勢アナリスト)
朴大統領

アメリカへの猜疑心や不安が募るなか、朴大統領(車上で敬礼する人物)は独自の核開発を目指した BAEK JONG-SIK/WIKIMEDIA COMMONS

<北朝鮮の脅威の高まりで盛り上がる核武装論、学ぶべきは軍事独裁政権時代の失敗例だ>

韓国は独自の核武装に踏み切るべきか。そんな論議が、再び大きく取り上げられている。最近、韓国で行われた世論調査では、独自の核兵器開発が必要だと回答した人の割合が76.6%に達した。

韓国政府内では、その論調はさらに強い。今年1月には、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領自身が核武装の可能性を示唆した。

もっとも、韓国が核開発を検討する(どころか、着手を決意した)のは、これが初めてではない。現在では考えられない話だが、アメリカは1970年代、北朝鮮よりも韓国の核計画を懸念していた。

軍事独裁政権下の74年、韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は極秘の核兵器技術開発計画「890」を承認した(韓国軍が主導する核兵器設計作業は72年に始まっていた)。

当時は、朴にとって不安の大きい時期だった。自身の暗殺を狙った北朝鮮支持者の銃撃で、妻・陸英修(ユク・ヨンス)が死亡したのは74年8月。74年と75年には相次いで、南北軍事境界線に設置されたDMZ(非武装地帯)で、北朝鮮の「南侵トンネル」が発見された。

さらに、ニクソン米政権の在韓米軍削減決定を受け、71年に駐留米軍主力2個師団のうちの1つ(計6万3000人のうち約2万人)が引き揚げたことに、朴は不満を抱いていた。

今から思えば、韓国防衛というアメリカの約束に対して猜疑心を募らせていたのだろう。だが、朴の強硬姿勢にもかかわらず、米政府は核武装を断念させることに成功した。

70年代の出来事から学べる教訓は何か。核のリスクがかつてないほど膨らむ今、当時を振り返ってみるべきだろう。

韓国の核に対する野望が大問題になったのは74年だ。この年、米情報機関は韓国の核活動を示す証拠の収集を始めた。その数は増える一方で、計画に歯止めをかけなければ、80年までに核兵器を保有する可能性があるとみられた。

燃料物質の再処理施設の導入に向け、韓国がフランスと交渉しているとの情報もアメリカはつかんだ。実現すれば、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す活動に使用されかねない。韓国は原子炉購入をめぐってカナダとも交渉していた。

米政府は75年2月までに、単独行動と多国間協調行動を通じて、韓国の機密技術・機器へのアクセスを阻止することを検討していた。核開発能力だけでなく、ミサイル技術の向上も韓国の目的だと、米情報機関は報告していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中