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ウクライナ情勢

条約違反には躊躇しつつも、プーチンの挑発が止まらない

Putin’s Newest Provocation

2023年2月27日(月)12時57分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
爆撃機

廃棄した爆撃機は相手国が衛星画像で確認できるよう野ざらしに JOHN VAN HASSELTーSYGMA/GETTY IMAGES

<新START(戦略兵器削減条約)の履行は停止するが、脱退はしない──新たな揺さぶりで米ロの核軍拡競争に再燃、「最悪のシナリオ」の恐れが>

2月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は米ロ間に残る唯一の核軍縮条約である新STARTの履行停止を表明した。これを受けて東西の緊張は新たなレベルに突入、数十年間下火になっていた核軍拡競争が再燃する恐れがある。

だが完全に制御不能になるとは限らない。プーチンは21日の年次教書演説で、「新STARTの履行を停止する」が「脱退はしない」と述べた。言い換えれば、核兵器の数や核実験についての制限は守るが、今後はロシアの核施設を米高官が査察することを許可しないというわけだ。

ある意味これは大したことではない。コロナ禍とプーチンのウクライナ戦争が原因で、米ロ両国は過去2年間、互いの核施設の現地査察を実施していない。だが長年、人工衛星と無線諜報による情報収集活動を利用して互いの核活動を監視し、重大な条約違反を検知することはできている。

一方、現地査察を認める条項はこの条約の目玉だった。新STARTは米ロに核兵器の「制限」だけでなく「削減」も義務付けていたからだ(STARTは「戦略兵器削減条約」の略)。

両国は複数の核弾頭を搭載できるミサイルを保有している。新STARTの上限に対応するには、一部のミサイルの核弾頭を改造して搭載可能な核弾頭の数を減らす必要がある。

衛星画像では他国が保有するミサイルの数は分かっても、ミサイルに搭載可能な核弾頭の数は分からない。ミサイル関連施設については変化を検知できても、ミサイルそのものをめぐる動きは分からない。だから現地査察が重要なのだ。

現地査察は、信頼を構築し両国の専門家が疑念と曖昧な部分を話し合う場を提供するという意味でも、非常に重要だ。しかしプーチンはウクライナ侵攻を強行し、西側への敵意を募らせて、信頼関係を台無しにしてきた(昨年11月には査察活動履行のための2国間協議も延期した)。

現地査察の終了は米ロの力の均衡に深刻な影響を及ぼすのか。ロシアが今後、保有可能な限りの核弾頭をミサイルに搭載しても、それほど問題ではないだろう。

両国が保有する核爆弾と核弾頭の数は既に、核戦争が勃発した場合に全ての標的を破壊するのに必要な数を上回っている。言い換えれば、双方共に、相手がそもそも核戦争を仕掛けるのを抑止するのに十分すぎる数を現在保有している。

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