最後の言論の自由が奪われる 総選挙控えたカンボジア首相、独立系メディアの免許剥奪
各国政府や人権団体が一斉に政権批判
今回のVODの閉鎖命令に対し各国政府や人権団体などから大きな批判を浴びている。
プノンペンの米国大使館は声明を出して「自由で独立した報道機関は民主主義が機能するうえで重要な役割を果たし、国民が意思決定するに際して事実を提供し政府に説明責任を負わせる」とメディアの存在意義を強調してVOD閉鎖の再考を求めた。
またカンボジアの「欧州連合(EU)」代表団は声明を出し「情報へのアクセスと言論の自由は民主主義の社会の基本的心情であり、自由で公正な選挙の基盤でもある」とフンセン首相の決定を批判した。
英ロンドンの人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は「今回の措置はカンボジア国内の独立系メディアの残された者に扉を閉めようとする露骨な試みであり、総選挙前に批判的な声に明確な警告を発した」と批判した。
仏パリに本部を置く「国境なき記者団」は2022年の世界各国の報道自由度ランキングでカンボジアを180カ国中142位に位置づけている。事実、フンセン政権は2017年にも「カンボジア・デイリー紙」と米系の「ラジオ・フリー・アジア」、「ボイス・オブ・アメリカ」など少なくとも15のラジオ局を閉鎖させている。
こうしたメディア弾圧の動きは翌2018年に総選挙が実施されることを前提にして行われたとされ、今回のVODの閉鎖も総選挙前という一致点がある。裏を返せばフンセン首相がそれだけ独立系メディアの存在が総選挙に与える影響力を懸念していることの表れともいえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など