中国の核戦力能力向上で何が起きる? 核軍拡競争・偶発的エスカレーションの危険性
防衛産業・技術基盤の育成が急務
とりわけ、こうした能力の要となる防衛産業・技術基盤の育成・促進が重要である。防衛産業・技術基盤は、継戦能力に不可欠なサプライチェーンの安定性に必須なだけでなく、先端技術開発を通じてわが国の優位性を高めるためである。
そのため、防衛装備品とともに、軍民両者に活用可能なデュアルユース品への研究開発投資もさらに推進する必要がある。そうすることで、民生品を防衛装備に取り入れ、逆に防衛用の技術を民生品に活用するという正のスパイラルを生み出すことができる。
こうした点では、防衛装備庁が2024年に設置を検討している、いわゆる日本版DARPAとされる研究機関が推進役となると考えられる。
また、装備品の海外輸出を一層進めることも産業育成やパートナー国との連携深化のために効果的である。
こうした点に加え、米国の核の傘による拡大抑止が機能していることをしっかりと中国などに示していくことも重要である。
以上の要素を促進することで、総合的な抑止力の向上につながり、中国が一歩踏み出すことへの歯止めを強めることができると言える。
一方、抑止力の強化は相手国にも同様の行動を促進させ、結果的に緊張が高まるという安全保障のジレンマを引き起こす可能性もある。
それでは、地域の安定を確保するためには、抑止力強化以外にどのようなツールがありうるのだろうか。その1つが軍備管理である。
次回は、将来米中両国が軍備拡張競争の財政負担に耐えられなくなり、かつ地域の安定化を志向するケースを検討したい。
<参照>
国家安全保障会議、「防衛力整備計画」、2022年12月
U.S. department of Defense, "2022 Report on Military and Security Developments Involving the People's Republic of China", 2022.11
Ibid.p9.
Federation of American Scientists, "Status of World Nuclear Forces"
The hill, "Russia postpones key nuclear talks for second time, says US diplomat", 2023.1
Federation of American Scientists, "Status of World Nuclear Forces"
OER services, "Competition between East and West 32.4: Competition Between East And West, 32.4.1: The Atomic Race"
防衛省、防衛力抜本的強化「元年」予算、2023年、p.33
[執筆者]
池上敦士
株式会社富士通総研 上級研究員、一般財団法人防衛技術協会 客員研究員。科学技術・安全保障分野を中心に中央省庁向けの政策立案支援を経験。防衛技術ジャーナルや防衛年鑑に寄稿。慶應義塾大学経済学部卒、ハーバードケネディスクール在学中。
※本誌に掲載された内容は筆者個人の見解であり、所属組織としての見解を示すものではありません。