中国の核戦力能力向上で何が起きる? 核軍拡競争・偶発的エスカレーションの危険性
中国の核戦力強化が引き起こすもの
核戦略を構築する理論の1つとして相互確証破壊(Mutual Assured Destruction:MAD)があげられる。
MADは、いわゆる「恐怖の均衡」を裏付ける考え方であり、核兵器を保有する国家のどちらかが先制核攻撃を行う場合、相手国の残存核戦力により確実に報復を受けることで、核使用を相互に抑止するものである。
その意味では、相手国よりも多くの核弾頭を保有・配備することは恐怖の均衡を崩すこととなり、相手国も均衡を得るための核弾頭の配備数を増加させることとなる。
実際、冷戦時代には米ソがお互いの核戦力の均衡を得るために核軍拡競争につながった歴史がある。
以上をふまえると、米ロは中国が同程度あるいはより多くの戦略核弾頭を配備することに懸念を示す可能性が強い。
また、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロより優位となる場合、均衡を得るために米ロが同様に配備数を増加させ、米中ロの間で核軍拡競争が進む危険性がありうる。
同様に、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロと同程度になる場合においても、均衡した核戦力を背景により通常戦力の活用をより積極的に行う可能性がある。
いずれの場合においても、均衡した核戦力を盾に中国は台湾有事などにおける対米抑止力を向上させるとみられる。その場合に危惧されるのは、通常戦力による衝突可能性の増大や偶発的な核エスカレーションの発生だ。
核保有国に挟まれた日本が取るべき対応は...
仮に中国の核戦力が米ロと均衡し、同国が通常戦力の積極的な活用を行う場合、わが国はさらに厳しい安全保障環境にさらされることになる。
こうした状況に対応するためには、外交・防衛・産業基盤を含む全方位からの対応が必要となる。
まず、米国との同盟関係をさらに深化させるとともに、アジア諸国との連携の強化が求められる。
具体的には韓国・フィリピン・オーストラリア・インドなどの国との安保協力を促進することが必要である。これにより、わが国一国だけでなく総体としての対中抑止力を向上させることができる。
大統領制かつ二大政党制の韓国は政権交代に伴う大幅な政策変更のリスクもありうるが、米国と連携しながら同国との安保協力を促進することは中長期的に対中抑止力向上に貢献すると考えられる。
次に、昨年12月に閣議決定された安全保障関連3文書にも含めれているとおり、反撃能力を含めた通常戦力や継戦能力、サイバー分野などの新領域の能力強化が求められる。