最新記事

核戦力

中国の核戦力能力向上で何が起きる? 核軍拡競争・偶発的エスカレーションの危険性

2023年2月24日(金)11時35分
池上敦士(富士通総研 上級研究員、防衛技術協会 客員研究員)

中国の核戦力強化が引き起こすもの

核戦略を構築する理論の1つとして相互確証破壊(Mutual Assured Destruction:MAD)があげられる。

MADは、いわゆる「恐怖の均衡」を裏付ける考え方であり、核兵器を保有する国家のどちらかが先制核攻撃を行う場合、相手国の残存核戦力により確実に報復を受けることで、核使用を相互に抑止するものである。

その意味では、相手国よりも多くの核弾頭を保有・配備することは恐怖の均衡を崩すこととなり、相手国も均衡を得るための核弾頭の配備数を増加させることとなる。

実際、冷戦時代には米ソがお互いの核戦力の均衡を得るために核軍拡競争につながった歴史がある。

以上をふまえると、米ロは中国が同程度あるいはより多くの戦略核弾頭を配備することに懸念を示す可能性が強い。

また、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロより優位となる場合、均衡を得るために米ロが同様に配備数を増加させ、米中ロの間で核軍拡競争が進む危険性がありうる。

同様に、中国の戦略核弾頭の配備数が米ロと同程度になる場合においても、均衡した核戦力を背景により通常戦力の活用をより積極的に行う可能性がある。

いずれの場合においても、均衡した核戦力を盾に中国は台湾有事などにおける対米抑止力を向上させるとみられる。その場合に危惧されるのは、通常戦力による衝突可能性の増大や偶発的な核エスカレーションの発生だ。

核保有国に挟まれた日本が取るべき対応は...

仮に中国の核戦力が米ロと均衡し、同国が通常戦力の積極的な活用を行う場合、わが国はさらに厳しい安全保障環境にさらされることになる。

こうした状況に対応するためには、外交・防衛・産業基盤を含む全方位からの対応が必要となる。

まず、米国との同盟関係をさらに深化させるとともに、アジア諸国との連携の強化が求められる。

具体的には韓国・フィリピン・オーストラリア・インドなどの国との安保協力を促進することが必要である。これにより、わが国一国だけでなく総体としての対中抑止力を向上させることができる。

大統領制かつ二大政党制の韓国は政権交代に伴う大幅な政策変更のリスクもありうるが、米国と連携しながら同国との安保協力を促進することは中長期的に対中抑止力向上に貢献すると考えられる。

次に、昨年12月に閣議決定された安全保障関連3文書にも含めれているとおり、反撃能力を含めた通常戦力や継戦能力、サイバー分野などの新領域の能力強化が求められる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中