最新記事

中国共産党

「習は知らなかったらしい」──偵察気球問題が浮き彫りにした、権力構造における本当の「権力者」

Behind the Spy Balloon

2023年2月21日(火)11時49分
カルロ・カロ(政治アナリスト)
習近平

米モンタナ州上空で確認された気球のことを、習近平が知らなかった可能性が指摘されている TINGSHU WANGーREUTERS

<独裁体制であっても一枚岩ではない。習近平の意外に弱い影響力と序列が低い外務省。共産党・政府・軍の権力構造の中における、軍の力とは?>

米モンタナ州上空で、中国のものと思われる偵察気球が発見され、アントニー・ブリンケン米国務長官の訪中が直前で延期されたのは2月3日のこと。中国外務省も、この気球が中国のものであることを認めた(ただし気象研究用だと主張している)。

ところが、CNNなどによると、中国の権力構造のトップに立つ習近平(シー・チンピン)国家主席が、この気球を飛ばす計画を把握していなかった可能性があると、米政府高官が示唆しているという。

昨秋の中国共産党大会で異例の3期目の党総書記の座を手に入れ、3月初めに開かれる全国人民代表大会(国会に相当)で一段と権力基盤を強化するとみられている習が、こんな大胆な作戦を把握していなかったなどということがあり得るのか。

それとも「習は知らなかったらしい」ということにして、米政府が米中関係の悪化を防ごうとしているのか、真相は分からない。

ただ、一党独裁体制とはいえ、中国の外交政策は特定のアクターによって決まるわけではない。党や軍、外務省、地方政府など、さまざまなアクターが、それぞれの利益を追求して駆け引きを繰り広げるなかで、中国の対外的な措置や方針が形作られるのだ。

建国の父・毛沢東の時代の中国は極めて中央集権的な政治体制が確立されていたが、1970年代に毛が死去すると、新たな最高指導者・鄧小平の下では、一定レベルの裁量と政治力、そして外交政策能力を持つアクターが増えていった。

こうしたアクターの目標は相反する場合もあるが、党としてはうまくバランスを取って、全員を巻き込み政治経済を運営しなければならない。もちろん習も、そして習の指導下にある党も、各種アクターが外交政策に与える影響を無視することはできない。

このため、軍や地方政府が中国の主権の名の下に何らかの措置を取ろうとしたとき、たとえそれが習や党の利益と衝突する場合でも、習はあからさまに制限できない。

外務省は無視されがち

中国の多様なアクターの利益衝突がよく見られるのが、南シナ海だ。みな国益を口実にしながら、商業的利益や財政支出、政治的威信など自らの利益を追求しようとする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中