最新記事

中国共産党

「習は知らなかったらしい」──偵察気球問題が浮き彫りにした、権力構造における本当の「権力者」

Behind the Spy Balloon

2023年2月21日(火)11時49分
カルロ・カロ(政治アナリスト)

230228p42_CGK_02.jpg

米モンタナ州上空で確認された気球(2月1日) AP/AFLO

習は自らの手に権力を集中させてきたが、毛以降の中国の指導者が、毛ほどの絶対的権力を手にしたことはない。毛のように共産主義の革命を起こした正統性も、軍の絶対的支配力もないからだ。このため軍は習に遠慮せず、かなり自主的に動いてきた。

また、中国では党が全てを指導することになっているから、外務省ができる政策の実施や調整には限界があり、政策の詳細な立案は党に委ねられる。外相は政府の中でも序列が低く、外交政策が関連する決定にいつも関わっているとは限らない。

例えば、2012年に導入された新パスポートに、周辺諸国と領有権争いのある島々が中国の一部として描かれた地図が含まれていることが問題になったが、これは公安省が決めたことで、外相には相談がなかったと言われる。

また、党中央軍事委員会(軍を指導する最高機関)と国務院(内閣に相当)は同格だが、外務省は軍よりも格下だ。従って、軍の行動が中国の外交政策にマイナスの影響を与える場合でも、外務省が軍の措置に待ったをかけることはできない。

軍は世論を巧みに操作

かねてから中国の外務省は、南シナ海の島しょ部の領有権問題で、他の政府機関よりも穏健なアプローチを取ってきた。国内メディアがこれらの島しょ部における中国のプレゼンスをもっと強化するべきだと主張したときも、外務省は反対の見解を示した。

ただ、01年に海南島に近い南シナ海上空で中国軍機と米軍機が衝突した事件や、20年に中国当局の船がベトナムの漁船に体当たりして沈没させた事件後、外務省は態度を硬化させている。

軍が中国の外交政策に大きな影響を与えられる背景には、作戦面での自立性とメディアとの深い関わりがある。外交政策の立案では表向きは限られた影響しか与えられないが、実施の局面では軍の利益を念頭に置いて、独自の手法を取ることができる。外国との緊張を高めることもできる。

軍は世論を巧みに操作して、外交政策に影響を与えることもある。将校がメディアに出演して、愛国主義的な見解を示すことも少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ウクライナ支援で2案提示 ロ凍結資産活用もし

ワールド

トランプ政権、ニューオーリンズで不法移民取り締まり

ビジネス

米9月製造業生産は横ばい、輸入関税の影響で抑制続く

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中