最新記事

中国共産党

「習は知らなかったらしい」──偵察気球問題が浮き彫りにした、権力構造における本当の「権力者」

Behind the Spy Balloon

2023年2月21日(火)11時49分
カルロ・カロ(政治アナリスト)

例えば、羅援(ルオ・ユアン)退役少将は、南シナ海で米軍の空母を爆撃するべきだと主張した。軍が海南島事件の原因は米軍の挑発だとしてアメリカを非難したりしたこともある。

習が最高の地位にあるのは確かだが、最高意思決定機関である中央政治局常務委員会での議論に、外部の人間が影響を及ぼすことも少なくない。軍で諜報担当だった熊光楷(ション・コアンカイ)退役大将は、海南島事件への対応で重要な役割を果たしたとされる。

中国の意思決定システムでは、多方面からの情報収集が重視されるため、熊は10年以上にわたり、中国の外交政策に大きな影響力を及ぼした。

鄧以降の地方分権により、地方政府がパワフルなアクターになったことも外交政策に影響を与えている。なにしろ各省の党委員会書記は、中央政府の一部閣僚と同レベルの格がある。そんな省党委員会書記が、現在の中央政治局には6人含まれているのだ。

02年頃以降、中国は経済社会の国際化を進めるなかで、地方政府が東南アジア諸国との関係を独自に構築・維持することを奨励した。これは領土拡張への野心と経済成長、双方の維持という目標の達成に寄与したが、それは地方政府の自主性も高めた。

すると、地方政府の外交政策が、中央政府の利益と一致しないケースが出てきた。例えば12年、中国政府はベトナムとの関係改善を図ろうとしたが、海南省の強い要請を受け、西沙(パラセル)諸島や南沙(スプラトリー)諸島を管轄する行政単位として三沙市を新設し、ベトナムなど近隣諸国の神経を逆なでした。

一党独裁という政治体制ゆえに、中国の権力構造は一枚岩的だと思われがちだが、実態はずっと複雑だ。習と政治局常務委員会が最大の権力を握っているのは間違いないが、ほかにも多くのアクターが外交政策に影響を及ぼしていることもまた間違いないだろう。

アメリカの国務長官が中国を訪問する直前に、米本土に偵察気球を飛ばすという決定も、こうした複雑なパワーバランスから生まれたのだ。

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中