最新記事

中国

「他国に圧力『戦狼外交』に効果なし」というデータ結果──実は中国国内向けアピール?

2023年2月13日(月)12時47分
ベン・サンド(台湾ダブルシンク・ラボ研究員)
趙立堅

コワモテ報道官として知られた趙の異動は外交路線修正のサインなのか CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

<大国が小国の外交姿勢を変えられないどころか、反発を生む「強制理論」の考え方にも合致。それでも、なぜ中国は高圧的な外交政策をとるのか?>

中国政府が自国の目標を他国に押し付けるために取ってきた高圧的な外交路線は、「戦狼外交」という言葉で知られている。しかし、意外なことに、そうした外交はあまり成果を上げていないらしい。

筆者が所属する台湾の市民団体「ダブルシンク・ラボ」の「中国の影響力指数」プロジェクトでは、9分野の99の指標を通じて、世界の82カ国における中国政府の影響力の強さを調べている。

99の指標の中には、例えば「中国共産党に批判的な意見を述べたり、研究を発表したりした研究者が中国への入国を拒まれる場合がある」といったものが含まれている。調査対象国の180人を超す専門家の回答を通じてデータを収集している。

その昨年のデータを統計的に分析すると、予想外の結果が明らかになった。ある国が中国政府から受けている圧力の強さと、その国が中国寄りの政策を採用する度合いの間に、統計上有意な相関関係は見て取れなかったのである。

この調査結果は、国際関係論の「強制理論」の考え方にも合致する。強制理論の研究では、冷戦後のアメリカなどの強国が軍事制裁や経済制裁を実行しても、小国の外交姿勢を思うように変えられない理由を解明しようとしてきた。

この分野の研究によると、大国の高圧的な外交がしばしば実を結ばない理由の1つは、標的となった国の国民の反発にあるという。

実際、韓国政府が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決定し、中国がそれに対して経済的な報復を行った際は、韓国の世論が激しく反発した。このような世論を意識して、世界の国々は中国の圧力に屈しないのかもしれない。

中国の高圧的な外交が必ずしも効果を発揮しない理由としては、反抗的な国に長期にわたり圧力をかけ続けようとしないことも挙げることができそうだ。

研究によると、中国が他国に課す輸入制限は平均1年程度しか続かない。サケの輸入を規制されたノルウェーがベトナム経由で制裁をかいくぐった例もある。では、中国政府はどうして、効果がないにもかかわらず、世界のさまざまな地域で高圧的な外交を続けているのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中