「他国に圧力『戦狼外交』に効果なし」というデータ結果──実は中国国内向けアピール?
コワモテ報道官として知られた趙の異動は外交路線修正のサインなのか CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS
<大国が小国の外交姿勢を変えられないどころか、反発を生む「強制理論」の考え方にも合致。それでも、なぜ中国は高圧的な外交政策をとるのか?>
中国政府が自国の目標を他国に押し付けるために取ってきた高圧的な外交路線は、「戦狼外交」という言葉で知られている。しかし、意外なことに、そうした外交はあまり成果を上げていないらしい。
筆者が所属する台湾の市民団体「ダブルシンク・ラボ」の「中国の影響力指数」プロジェクトでは、9分野の99の指標を通じて、世界の82カ国における中国政府の影響力の強さを調べている。
99の指標の中には、例えば「中国共産党に批判的な意見を述べたり、研究を発表したりした研究者が中国への入国を拒まれる場合がある」といったものが含まれている。調査対象国の180人を超す専門家の回答を通じてデータを収集している。
その昨年のデータを統計的に分析すると、予想外の結果が明らかになった。ある国が中国政府から受けている圧力の強さと、その国が中国寄りの政策を採用する度合いの間に、統計上有意な相関関係は見て取れなかったのである。
この調査結果は、国際関係論の「強制理論」の考え方にも合致する。強制理論の研究では、冷戦後のアメリカなどの強国が軍事制裁や経済制裁を実行しても、小国の外交姿勢を思うように変えられない理由を解明しようとしてきた。
この分野の研究によると、大国の高圧的な外交がしばしば実を結ばない理由の1つは、標的となった国の国民の反発にあるという。
実際、韓国政府が米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備を決定し、中国がそれに対して経済的な報復を行った際は、韓国の世論が激しく反発した。このような世論を意識して、世界の国々は中国の圧力に屈しないのかもしれない。
中国の高圧的な外交が必ずしも効果を発揮しない理由としては、反抗的な国に長期にわたり圧力をかけ続けようとしないことも挙げることができそうだ。
研究によると、中国が他国に課す輸入制限は平均1年程度しか続かない。サケの輸入を規制されたノルウェーがベトナム経由で制裁をかいくぐった例もある。では、中国政府はどうして、効果がないにもかかわらず、世界のさまざまな地域で高圧的な外交を続けているのか。