「格差地獄」のベネズエラ──富裕層は空中レストランからスラム街を見下ろしながら食事を楽しむ
A Hell of Inequality
賃上げを求めるデモ参加者の手に「飢え」と書かれた箱が(カラカス)LEONARDO FERNANDEZ VILORIAーREUTERS
<マドゥロ大統領の「ドル化」政策は一部で成果を上げ、どん底を脱したが、その副作用で「社会的貧困」が拡大。懸念されるのは教育崩壊がつくる、今後の貧困>
2022年11月、ベネズエラの首都カラカスのきらびやかな商業地区ラス・メルセデスに、ニューヨークのサックス・フィフス・アベニューを思わせる高級百貨店「アバンティ」がオープンした。
この店には、グッチやヴェルサーチなど高級ブランド品がずらりと並ぶ。11万ドルもするサムスン製のテレビは、すぐに入荷待ちリストができた。
ベネズエラでは国民の大半が貧困に苦しんでいるのに、カラカスでは贅沢なレストランやブティックのオープンが相次いでいる。テーブルごとクレーンで上空に浮かべ、美しい夜景と共に食事を楽しむレストランまで登場した。
ベネズエラはウゴ・チャベス前大統領による国家介入型の経済政策によって、戦時を除けば世界最悪レベルの経済破綻を経験した。
彼の後に就任したニコラス・マドゥロ現大統領は、チャベス時代の従来型社会主義の政策とは距離を置き、緩やかな経済自由化を実施。多くの輸入品の関税を撤廃し、物価統制や為替管理を廃止したほか、米ドルを事実上の取引通貨とする経済の「ドル化」を進めた。
その結果、ベネズエラ経済は昨年、9年ぶりにプラス成長に転じた。インフレ率は依然として高いものの、ハイパーインフレと食料危機の波はおおむね過ぎ去った。
だが、全ての国民がその恩恵を受けているわけではない。シンクタンク「アノバ政策研究所」のエコノミスト、オマー・ザンブラーノは、むしろ経済改革の副作用によって、この国は「格差地獄」と化したと指摘する。
こうした経済の動向は、同国のアンドレス・ベーリョ・カトリック大学が昨年11月に発表した全国生活条件調査(ENCOVI)にも表れている。
これによれば、収入が貧困ラインを下回る世帯の割合は21年の90.9%から昨年は81.5%に減少した。調査責任者の1人アニツァ・フレイテスは、正規雇用者が増え、民間部門の賃金が全体的に上昇したことが一因と分析する。
一方で、調査は厳しい現実も浮き彫りにした。ベネズエラが世界で最も不平等な国の1つだということだ。