国家「ナンバー2」フック前首相が突然消えた、ベトナムの「自浄作用」と輸出依存型の不安な経済
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こうした流れからすると、共産党はどうやらここにきて方針を転換したようだ。大物官僚であっても法令違反の疑いがあれば厳しく責任を問うのはこれまでと同じだが、その一方で罪を認めれば辞任という形で名誉ある引退を認める──そのほうが、党の権威を守るには都合がいいことに党トップは気付いたようだ。
方針転換が顕在化したのは1月5日。国会が2人の副首相の辞任を承認したときだ。昨年にはロン前保健相や駐日大使を務めたブー・ホン・ナムのような大物も含め、多くの高官が解任され、逮捕され、起訴され、不名誉な処分を受けた。それに比べ、2人の副首相については自ら職を退くという寛大な処分で済んだことは驚きだった。
昨年来の汚職捜査はグエン・フー・チョン党書記長の意向に添ったものだ。チョンは「炉が熱ければ湿った薪でも燃やす」と語り、不正を働いた者は誰であれ厳罰に処す徹底した反腐敗キャンペーンを主導してきた。だが、ここにきて党は「辞任の文化」なるものを根付かせ始めた。
きっかけとなったのはチョンの最近の発言だ。「過ちを犯した者が自主的に職を退き、不正に取得した金を返せば、処罰を軽くするか、場合によっては免除するなど、個々のケースについて柔軟に対処すべきだ。全員を厳しく罰したり、辞めさせる必要はない」
この発言を受けて、党は方針を変えた。今や汚職に手を染めても、自ら名乗り出て、自分の行為に責任を取ればさほど痛い目に遭わずに済む。それが共産党にとっても国家にとっても最善の方策だと、チョンらは気付いたのだ。
汚職官僚が次々に処分される事態に国民はこの先どうなるか不安を募らせていた。チョンらはそうした世論の風向きを見て方針を変えたのだろう。新方針の下で一律の硬直した処分ではなく、不正への関与の度合いに応じたより柔軟な処分が取られ、党人事に説明責任が伴うようになれば大きな進歩だ。
しかし、今の雲行きではそれは望めそうにない。気になるのは辞任が認められる条件がはっきりしないこと。現状では辞任の理由について国民に明確な説明がなされず、これまで以上に透明性が失われかねない。
「中国型」の権力集中か
1954年生まれのフックは2016年から21年まで首相を務め、共産党の政策を実行し、経済成長を促進して国民の生活水準を向上させる政府の取り組みを監督する責任を担った。そして21年に国家主席に選出された。
首相と国家主席の在任中は企業寄りの政策で知られ、ベトナムへの外国投資の誘致に尽力した。また、国のインフラを改善し、現代的な法制度を構築して、より開かれた持続可能な経済を推進した。フックの政治的立場と政策は党と一致しており、党の権力支配の維持に努めてきた。