国家「ナンバー2」フック前首相が突然消えた、ベトナムの「自浄作用」と輸出依存型の不安な経済
Accountability Matters
フック国家主席の任期途中の異例の辞任はベトナム政界を揺るがした(国家主席就任時の宣誓、21年4月) AP/AFLO
<新型コロナ絡みで官僚の収賄が大スキャンダルになったベトナム。外交政策は維持されても、国内政局は大幅改新か? ネックは世界的不況下での輸出偏重型経済の不透明性>
まさに衝撃的な出来事だった。一党支配のベトナム共産党が1月17日、グエン・スアン・フック国家主席の辞任を発表したのだ。
「4本の柱」と呼ばれるベトナムの4人の最高指導者、すなわちナンバー1の共産党書記長、ナンバー2の国家主席、そして首相と国会議長のうちの誰かが任期途中で退くのはベトナムでは南北統一以来初めて、前代未聞の事態である。
フックの辞任を受けて、党中央委員会はこの日、首都ハノイで緊急会合を開いた。フックは首相時代に起きた不正疑惑の責任を問われていたようだ。
2021年4月に国家主席の座に就くまで首相を務めていたフックは新型コロナウイルス感染症対策で陣頭指揮を執ったが、党の公式発表によるとその監督下で「副首相2人と閣僚3人を含む数人の高官が違法行為を犯し、甚大な損害を及ぼした」という。
問題の副首相2人、ファム・ビン・ミン筆頭副首相とブー・ドゥック・ダム副首相は既に辞任している。さらに、少なくとも2人の元閣僚を含む複数の政府高官がコロナ対策に便乗した収賄容疑で刑事告発されている。
「フックは自身の責任を痛感し、現在の役職から退く決断をした」と公式発表では述べられている。翌18日に開かれた臨時国会で、フックの辞任は正式に承認された。
異例ずくめのこの一連の動きは、ベトナム政治の現状、そしてフック退任がベトナムの内政と外交に及ぼす影響について深刻な懸念を抱かせずにはおかない。
党の権威を守るために
首相時代の直属の部下だった2人の副首相が辞任した時点で、大方のウオッチャーは、フックの辞任も時間の問題だとみていた。
ベトナムでは新型コロナの感染拡大時、国内企業のベトアー・テクノロジー・コーポレーションが地方当局と結託して、検査キットを法外な価格で医療機関に納入した疑惑が浮上。加えて、在外ベトナム人を帰国させる特別便の手配で旅行代理店が官僚に賄賂を贈った疑惑も取り沙汰され、コロナ禍絡みの一連の疑惑はこの国を揺るがす一大スキャンダルに発展した。
これらの疑惑をめぐり、グエン・タイン・ロン前保健相ら大物が逮捕され、党から除籍されたほか、複数の省庁幹部の身辺に捜査の手が伸び、これまでに100人以上が逮捕されている。