最新記事

ベトナム

国家「ナンバー2」フック前首相が突然消えた、ベトナムの「自浄作用」と輸出依存型の不安な経済

Accountability Matters

2023年2月3日(金)11時19分
クイン・レ・トラン(ジャーナリスト)

フックの辞任は、ベトナムの政治と統治にとって大きな意味を持つ。潜在的には党内で権力闘争が始まる可能性がある。政治局はボー・ティ・アイン・スアン国家副主席を暫定代行に指名した。次の国家主席は5月の国会で選出される見込みだ。

第1のシナリオは、中国の習近平(シー・チンピン)のように、チョン党書記長が一時的に国家主席を兼任するというものだ。この場合、党内で権力集中が進むことになる。意思決定の効率化にはつながるだろうが、一方で権威主義が強まり、党の権力に対するチェック機能が働かなくなるかもしれない。

第2のシナリオは、別の政治局員が国家主席に昇格するというものだ。この場合、党内のパワーバランスが変化する可能性がある。また、党執行部に新しい視点や考え方がもたらされるきっかけになるかもしれない。

ただし、党内の各派閥が新しい執行部に順応しなければならないという問題が生じる。さらに、政府高官の入れ替えが行われ、党内の勢力の新たな連携が生まれるかもしれず、国の安定や政府の統治能力、重要な意思決定に影響を与えるだろう。

外交政策への影響もある程度、考えられる。フックは国際社会で知名度が高く、アメリカをはじめ西側諸国と良好な関係を築いてきた。西側諸国は彼の退陣に伴い、新しい指導者とその政策を理解しなければならないことに不安を覚えるかもしれない。

一方で、ベトナムは一党独裁国家であり、その行動は共産党の公約や優先順位と密接に結び付いている。従って、フックが辞任しても、多少の不確実要素は生まれるかもしれないが、外交に関する国の基本姿勢が変わることはなさそうだ。外交の意思決定者は引き続き共産党であり、新しい国家主席は党の方針に従うだろう。

輸出偏重経済のリスク

ベトナムの外交政策は、全ての国と良好な関係を維持し、主要国との関係をバランスよく保ちながら、貿易と外国投資を通じて経済発展を促進することを重視する。

アメリカは常に、貿易と投資、安全保障、教育、保健など多くの分野でベトナムの重要なパートナーである。誰がトップであろうと、ベトナムのこうした姿勢は長年にわたり変わっていない。

つまり、フックの辞任は、短期的には不確実性をもたらして調整が働くかもしれないが、新しい執行部は共産党の従来の外交政策を堅持して、ほかの国々、特にアメリカと良好な関係を維持し、国と国民の利益に貢献することになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中