国家「ナンバー2」フック前首相が突然消えた、ベトナムの「自浄作用」と輸出依存型の不安な経済
Accountability Matters
フックの辞任は、ベトナムの政治と統治にとって大きな意味を持つ。潜在的には党内で権力闘争が始まる可能性がある。政治局はボー・ティ・アイン・スアン国家副主席を暫定代行に指名した。次の国家主席は5月の国会で選出される見込みだ。
第1のシナリオは、中国の習近平(シー・チンピン)のように、チョン党書記長が一時的に国家主席を兼任するというものだ。この場合、党内で権力集中が進むことになる。意思決定の効率化にはつながるだろうが、一方で権威主義が強まり、党の権力に対するチェック機能が働かなくなるかもしれない。
第2のシナリオは、別の政治局員が国家主席に昇格するというものだ。この場合、党内のパワーバランスが変化する可能性がある。また、党執行部に新しい視点や考え方がもたらされるきっかけになるかもしれない。
ただし、党内の各派閥が新しい執行部に順応しなければならないという問題が生じる。さらに、政府高官の入れ替えが行われ、党内の勢力の新たな連携が生まれるかもしれず、国の安定や政府の統治能力、重要な意思決定に影響を与えるだろう。
外交政策への影響もある程度、考えられる。フックは国際社会で知名度が高く、アメリカをはじめ西側諸国と良好な関係を築いてきた。西側諸国は彼の退陣に伴い、新しい指導者とその政策を理解しなければならないことに不安を覚えるかもしれない。
一方で、ベトナムは一党独裁国家であり、その行動は共産党の公約や優先順位と密接に結び付いている。従って、フックが辞任しても、多少の不確実要素は生まれるかもしれないが、外交に関する国の基本姿勢が変わることはなさそうだ。外交の意思決定者は引き続き共産党であり、新しい国家主席は党の方針に従うだろう。
輸出偏重経済のリスク
ベトナムの外交政策は、全ての国と良好な関係を維持し、主要国との関係をバランスよく保ちながら、貿易と外国投資を通じて経済発展を促進することを重視する。
アメリカは常に、貿易と投資、安全保障、教育、保健など多くの分野でベトナムの重要なパートナーである。誰がトップであろうと、ベトナムのこうした姿勢は長年にわたり変わっていない。
つまり、フックの辞任は、短期的には不確実性をもたらして調整が働くかもしれないが、新しい執行部は共産党の従来の外交政策を堅持して、ほかの国々、特にアメリカと良好な関係を維持し、国と国民の利益に貢献することになるだろう。