最新記事

天体観測

【解説】2月2日に最接近し「肉眼で見える」──二度と戻って来ない「緑のZTF彗星」の正体

A COSMIC GIFT OF GREAT PRICE

2023年2月1日(水)13時10分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

230207p52_SSE_03.jpg

小惑星のイメージ SCIEPROーSCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

しかし、地上の私たちにとっては顕著な変化がいくつか生じるだろう。例えば、北斗七星を構成する7つの恒星は互いの重力の影響を受けやすいから、5万年もすれば位置が変わり、今のような星座の姿ではなくなるだろう。地球の自転速度は遅くなり、1日が1秒長くなるだろう。ナイアガラの滝は浸食されてただの川になり、北半球には再び氷河期が来ているかもしれない。

アメリカのアリゾナ州には、約5万年前に巨大な隕石が落ちた。そのときのクレーターは今も残っている。直径約1200メートル、深さ約180メートルの巨大な穴だ。そんなものが降ってくる確率は低いが、ゼロではない。だからこそ研究者たちは彗星や小惑星の動きに目を光らせている。

「長周期彗星は太陽系内の小惑星などに比べて極めて大きく、速く動く傾向を持つ。比較的珍しいが、パンチ力は大きい」とアリゾナ大学のマインザーは言う。「しかも、近くに来ないと見えにくい」

衝突の可能性を予測するには、相手を発見して軌道を詳しく調べることが重要だ。「小惑星はただ直進してくるわけではない」と言うのは、NASAで天体防衛チームを率いるケリー・ファストだ。「都心の交通渋滞時と同じで、何かの拍子で2つの物体が同じ空間に居合わすことになれば衝突が起きる」

昨年9月には、NASAの無人探査機ダート(DART)が小惑星ディモルフォスに体当たりする実験を行い、いざとなれば小惑星や彗星の軌道を変更できることを証明した。ただし、十分な距離があるうちに手を打つ必要があることも分かった。仮にZTF彗星が地球に向かっていたとすれば、昨年3月の発見では間に合わなかった(ご心配なく、実際には地球激突コースではない)。

米議会は1995年、NASAに直径1キロ以上の小惑星や彗星その他の地球近傍天体(地球に接近する軌道を持つ天体)の90%を特定するよう指示した。その大きさがあれば6500万年前に恐竜が絶滅したような地球規模の大惨事を引き起こせるからだ。2005年には、標的の規模を「直径140メートル以上」に変更している。

1908年には、シベリアの森林地帯に直径約40メートルの隕石(小惑星も彗星も、大気圏に突入すると隕石と呼ばれる)が落ち、2000平方キロ以上にわたって地上の全てのものをなぎ倒した。今から10年前にも、ロシアのチェリャビンスクに直径約20メートルの隕石が落ちた。このとき集合住宅の窓が吹き飛ぶ様子は携帯電話やドライブレコーダーで撮影された。

NASAは近年、天体の地球衝突に備えるための予算を増やしている。米議会が昨年承認した1億9700万ドルには、ZTFなど世界各地の観測所への助成金が含まれる。おかげで観測件数は飛躍的に増えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中