最新記事

天体観測

【解説】2月2日に最接近し「肉眼で見える」──二度と戻って来ない「緑のZTF彗星」の正体

A COSMIC GIFT OF GREAT PRICE

2023年2月1日(水)13時10分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

230207p52_SSE_04.jpg

アリゾナ州の隕石衝突の跡 CHRIS SAULITーMOMENT/GETTY IMAGES

NASAの予算には、老朽化した宇宙望遠鏡の代わりとなる地球近傍探査機の計画も含まれる。2028年に打ち上げ予定のNEOサーベイヤーは、小惑星や彗星の監視を任務とする。重力の均衡を保ちながら地球と太陽の間にとどまるので、今は太陽の輝きのせいで見えにくい空間も監視できるという。

「ただ遠くを見るだけじゃいけない。昼間の空に目を光らせ、太陽の周辺を監視したい。そこに未知の天体がいる可能性もある」と、マインザーは言う。ただし彼女は、そういうものが地球に激突する確率は高くないとみている。「夜も眠れないというほど心配する問題ではない。もしも(小惑星や彗星の衝突の)頻度が高かったら、人類はとっくの昔に絶滅していたでしょう」

次の5万年先の見通しは

ZTF彗星の詳細については、研究者たちがデータを集めて予測を更新している最中だ。太陽から遠く離れた軌道を回る長周期彗星の常として、この彗星も太陽系から離脱して広大な星間空間へと向かう可能性を秘めている。そうすればどこか遠くの恒星に引っ張られて、二度と戻ってこない。

地球の近くを通過する長周期彗星の中には、いずれ「もっと大きな惑星の重力に影響されて太陽系の外へはじき出される」ものもあると、ZTFのチュアンジ・イエは言う。ただし彼の見立てでは、この彗星は今後、木星や土星、海王星の近くを通り、その重力のおかげで楕円軌道を保ち、また5万年後くらいに戻ってくるはずだ。

そうだとして、それを見届けるのは誰だろうか。人類がこの先の5万年を生き延びるためには、人為的な気候変動に勝ち、100億を超す人を養うのに必要な食料を確保し、進化したAIに負けない賢さを持つ必要もある。

運が良ければ、私たちの子孫は火星からZTF彗星を眺めているかもしれない。空気があり、食物が育つ豊かな土壌もあり、地球のように人間が住めるように改造された「宇宙植民地」の火星からだ。

果たして人類は5万年でどのように進化するだろうか。もしかすると放射線や宇宙空間の真空状態に耐える皮膚を持ち、太陽から直接にエネルギーを吸収するヒレを持つような宇宙人になっているかもしれない。あるいは頭も心も機械に委ね、綺羅星の間に広がる「メタ・インテリジェンス」と化しているかも。いや、そんな夢想にふける時間はない。早く双眼鏡を持ってこないと、この彗星は消えてしまうから。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ワールド

焦点:低迷するドイツ、総選挙で「債務ブレーキ」に転

ワールド

英国、次期駐中国大使に元首相首席秘書官が内定 父は

ビジネス

独総合PMI、2月は9カ月ぶり高水準 製造業が3カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中