【解説】2月2日に最接近し「肉眼で見える」──二度と戻って来ない「緑のZTF彗星」の正体
A COSMIC GIFT OF GREAT PRICE
NASAの予算には、老朽化した宇宙望遠鏡の代わりとなる地球近傍探査機の計画も含まれる。2028年に打ち上げ予定のNEOサーベイヤーは、小惑星や彗星の監視を任務とする。重力の均衡を保ちながら地球と太陽の間にとどまるので、今は太陽の輝きのせいで見えにくい空間も監視できるという。
「ただ遠くを見るだけじゃいけない。昼間の空に目を光らせ、太陽の周辺を監視したい。そこに未知の天体がいる可能性もある」と、マインザーは言う。ただし彼女は、そういうものが地球に激突する確率は高くないとみている。「夜も眠れないというほど心配する問題ではない。もしも(小惑星や彗星の衝突の)頻度が高かったら、人類はとっくの昔に絶滅していたでしょう」
次の5万年先の見通しは
ZTF彗星の詳細については、研究者たちがデータを集めて予測を更新している最中だ。太陽から遠く離れた軌道を回る長周期彗星の常として、この彗星も太陽系から離脱して広大な星間空間へと向かう可能性を秘めている。そうすればどこか遠くの恒星に引っ張られて、二度と戻ってこない。
地球の近くを通過する長周期彗星の中には、いずれ「もっと大きな惑星の重力に影響されて太陽系の外へはじき出される」ものもあると、ZTFのチュアンジ・イエは言う。ただし彼の見立てでは、この彗星は今後、木星や土星、海王星の近くを通り、その重力のおかげで楕円軌道を保ち、また5万年後くらいに戻ってくるはずだ。
そうだとして、それを見届けるのは誰だろうか。人類がこの先の5万年を生き延びるためには、人為的な気候変動に勝ち、100億を超す人を養うのに必要な食料を確保し、進化したAIに負けない賢さを持つ必要もある。
運が良ければ、私たちの子孫は火星からZTF彗星を眺めているかもしれない。空気があり、食物が育つ豊かな土壌もあり、地球のように人間が住めるように改造された「宇宙植民地」の火星からだ。
果たして人類は5万年でどのように進化するだろうか。もしかすると放射線や宇宙空間の真空状態に耐える皮膚を持ち、太陽から直接にエネルギーを吸収するヒレを持つような宇宙人になっているかもしれない。あるいは頭も心も機械に委ね、綺羅星の間に広がる「メタ・インテリジェンス」と化しているかも。いや、そんな夢想にふける時間はない。早く双眼鏡を持ってこないと、この彗星は消えてしまうから。