ドミニク・チェンが語る、2050年のSNS・コミュニケーション・自律分散
THE BEST WAY IS TO INVENT IT
社会資本をもっている高齢者と高齢者予備軍が若い世代に権力を委譲して、自分たちでなく、次世代の都合を考えて行動しなければならないと思います。これは構造的な問題です。わたし自身、小さい子供と生きていて、また、大学で若い人たちと活動をしていて、近い将来にジェロントクラシーに加担しないようにするにはどうすればよいのかと考えさせられます。高齢者に権力が集中している状態を解消して、若い人たちがより自律的に自己決定して自分たちやさらに次の世代のための行動や政策を考えられる社会にならなければいけないと強く感じます。
そのために為すべきことは実に多くの領域にまたがっているでしょう。わたしは情報技術とコミュニケーションを専門に研究していますが、この問題を考える上で社会的コミュニケーションは重要な分野だと思います。というのも、これからの社会にあっては、現実像を共有するために、何が真実なのかについてに最低限の合意形成をしていかないといけないからです。
――SNSの分野ではどのような形で問題が表面化していますか?
SNSはますます多くの人にとってニュースの最初のタッチポイントとして機能していますが、そこではフェイクニュースや真偽の判別がつかない強い主張が渦巻き、コロナ禍や戦争、政治の問題でわたしたち全員を振り回しています。正常な判断ができていない大人たちを目の当たりにしている今の20代はすごく混乱しているだろうと思います。そうなると無関心になるか、強烈に分かりやすい主張に身を委ねるかの両極端になってしまいかねません。
今、SNS上では政治家からインフルエンサーまでが、自分にとって都合の悪いことはフェイクだと言って一定の支持を得る方法を共通して採っています。それを見て子供たちが育つと、強烈な主張をして注目を集める「アテンション・エコノミー」が、ある種の勝ち筋だと思われてどんどん強化されていってしまうでしょう。
プラットフォーマーも広告収益を上げるため、刺激の強い情報を流せば流すほど儲かる構造に甘んじてきました。ページビューを稼ぎ、注目を集めるために利用者の滞在時間を増やすようなSNSをはじめとしたインターネットの構造、ビジネスモデルを変えていかないと2050年もわれわれは同じことをしていると思います。
イーロン・マスクはツイッターを買収して超ワンマン経営で「表現の自由を担保する」と言っていますが、結局はすごく旧世紀的な、中央集権的なモデルの経営でそれをやろうとしています。マスクも、アップルのスティーブ・ジョブズもそうでしたが、一人に全権を集中させて社員に必死に残業させて世界を変える、というモデルから脱しないと、結局は経験も金もある年上のほうが強い社会から脱却できないと思います。