ドミニク・チェンが語る、2050年のSNS・コミュニケーション・自律分散
THE BEST WAY IS TO INVENT IT
テクノロジーが日本各地で地方自治の概念を変えつつある(山古志地域の棚田) AFLO
<良き未来を阻む「老人支配」や「アテンション・エコノミー」から脱する自律分散的な在り方への試みは、既に日本各地で芽吹いている>
※本記事はニューズウィーク日本版2023年2月7日号「日本のヤバい未来 2050」特集に掲載された記事の拡大版です。
日本においてSNSなどネットを中心としたコミュニケーションが進むべき方向とは? また、その障害や希望となり得るテクノロジーとはなにか。エンジニア・起業家・情報学者として横断的な活動を展開しつつ、一児の父として日本の行く末も案じるドミニク・チェン氏に本誌・澤田知洋が聞いた。
――2050年の日本におけるポジティブ・幸福な社会像とはどんなものでしょうか?
ウェルビーイングという概念が研究されています。身体的・精神的・社会的に充足している状態という意味で、人類共通のウェルビーイングも調べられてきましたが、近年では国・地域ごとの差異を認識することの大事さが指摘されています。例えば日本を含む東アジアに共通する文化的価値観では、欧米的な個人主義はそのままではなじまず、他者との関係性をどう充足させるかがより重要だということが研究で分かってきました。
ウェルビーイングな2050年の日本社会を目指す上で、考えるべきことのひとつには、社会的なコミュニケーションや合意形成をどう改善するかという問題が挙げられると思います。その中には、これまでは人々の注意を収奪することで収益を最大化するように設計されてきたSNSをどうデザインし直せるかという課題も含まれています。
――そのための最大の障壁は何でしょうか?
少子高齢化の問題は既に顕在化していて、政治・経済レベルでもいわゆる「ジェロントクラシー」をどう解きほぐすかという点が喫緊の課題であるように思います。ジェロントクラシーとは日本語では「老人支配」と訳される用語で、もともとは高齢の政治家が支配を行うことを指すものですが、現在の日本においては高齢の有権者が政治を決定しているという意味で解釈するべき言葉だと思います。
日本の政治の動きを見ていると、若年層と高齢者層の間で格差が広がり、良い関係性が築けていないように思います。日本の若者世代は自己肯定感が痩せ細っていて、厚生労働省によると10代後半の死因の1位は自殺です。内閣府の調査で自分は役に立たないと強く感じるかという質問に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と合計で約5割が答えています。