米独の戦車合意が「微妙すぎる」理由──アメリカの真の狙いは
A Delicate Pact for Tanks
ウクライナはレオパルト2など欧米製戦車300両を求めている PHILIPP SCHULZEーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES
<ようやくウクライナへの供与が決まった最強戦車、実は消極的だった両国の思惑と決断の皮算用は>
アメリカが米陸軍の主力戦車「M1エイブラムズ」をウクライナに供与する一方、ドイツは世界最強とされる自国製の「レオパルト2」戦車を提供し、欧州内のレオパルト保有国の供与も認める──。
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1月25日、米独両首脳がそれぞれ、そう発表した。両国の間で合意がまとまったのは、その前日のことだ。
ドイツのオーラフ・ショルツ首相は国民の反対の声やロシアの反発を懸念し、レオパルト供与には後ろ向きだった。アメリカも主力戦車を供給するのでなければ、ドイツとしては応じられない、と。
今や折り合いはついた。アメリカが提供するのは、ウクライナ軍の戦車大隊1個分を編成可能な31両。配備は数カ月先の予定で、実際には1年ほど後になる可能性がある。
時間がかかるのは、新規調達する必要があるためだ。米陸軍はエイブラムズ約4400両を保有し、既に多くを欧州内に配置している。既存の戦車を即時供与し、新たに製造したものと後で交換することにしなかったのはなぜか。複数の米高官に尋ねたが、明確な回答は得られなかった。
在庫から供給する場合、部分的な変更が必要になるのは確かだ(輸出版エイブラムズは米軍用と同水準のテクノロジーを装備していない)。それでも、新規に調達するより時間がかからないだろう。
米国防総省やホワイトハウスの高官は従来、供与に反対していた。彼らに言わせれば、エイブラムズは構造が複雑すぎて(故障しがちであり、特に燃料補給に際して、補給ラインへの依存度が高すぎるため)ウクライナ軍が運用・維持管理するのは難しい。1月20日の時点でも、あるホワイトハウス関係者は筆者に、米政権が供与に踏み切ることはないと語っていた。
現実的な効果は未知数
反対派は意見を変えたわけではない。米国防総省内では今も、ウクライナでの戦争に適していないと主張する向きが多い。それでもドイツにレオパルト供与を決断させるには、エイブラムズを提供しなければならないと、ジョー・バイデン米大統領は判断し、多くの側近が同意した。
形式的な措置として、ごく少数だけ提供してはどうかという外部からの提案もあった。だがこれには、あまりに見え透いたやり方だとの異論が供与反対派からも出た。その結果、戦況に目に見える変化をもたらすのに十分な規模、つまり戦車大隊1個分を提供する妥協案がまとまった。
とはいえ、実際にどれほど変化が生まれるかは不明だ。主な目的は「ウクライナの長期的な防衛体制強化」だと、米政府高官の1人は発言する。エイブラムズは「今後数カ月、数年」単位で同国の安全保障を強化するという。