最新記事

ウクライナ情勢

米独の戦車合意が「微妙すぎる」理由──アメリカの真の狙いは

A Delicate Pact for Tanks

2023年1月31日(火)11時50分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

一方で、レオパルトについては、ウクライナの「短期的」防衛需要に応えると述べている。ドイツ、および欧州内の保有国(ポーランド、スペイン、ノルウェー、フィンランドなど)は早ければ2~3週間以内に、予定された供与分の一部を配備する予定だ。

【関連記事】独、 ウクライナへ戦車「レオパルト2」供与を決定 他国からの供給も許可

アメリカの真の狙いは

第1段階として、ドイツは14両を即座に引き渡す。ほかの保有国と合わせた供与総数はおよそ80両で、2個戦車大隊を編成しても余る規模だ。

イギリスは1月14日、英陸軍の主力戦車「チャレンジャー2」14両を提供すると明らかにしている。昨年11月、アメリカとオランダが、ウクライナ軍の使用する戦車と類似した、チェコの所有する旧ソ連製T72戦車計90両を、改修して供与すると発表した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は感謝を表明するとともに、ロシア軍に反撃して領土を回復するには欧米製戦車300両が必要だと主張している。だがその根拠は、はっきりしない。

ウクライナには何が、どれほど必要なのか。戦況を追う当局者の間でも、意見は分かれる。加えて「ウクライナ当局が公式に求めるものと、ウクライナ軍が非公式に必要だと言うもの、重要度が高いとアメリカが判断するものには隔たりがある」と、ある防衛アナリストは筆者に語った。

戦車大隊1~2個分では、大した支援とは思えないかもしれない。だが「少数の優れた戦車によって、熟練兵士が戦闘で成し遂げられることを目にした経験から言えば、意義は大きい」と、アフガニスタン・イラク駐留米軍司令官を務めたデービッド・ペトレアスは指摘した。歩兵隊や工兵隊、防空システム、電子戦、ドローン(無人機)と連携した場合は特にそうだ。

エイブラムズが配備され次第、実戦で運用できるよう、ウクライナ軍は「可能な限り早期に」操縦訓練を開始すると、バイデンは供与表明演説で語った。ウクライナ軍兵士の一部が、おそらくドイツに配備済みの同戦車で訓練を行うことを示唆する発言だ。

演説の冒頭、軍事的義務を果たすことに「力を尽くしている」と、バイデンはドイツを評価した(ドイツのウクライナへの経済的・軍事的支援の規模は、アメリカに次ぐ2位だ)。欧米各国間の「団結のために強力な」役割を果たしていると、ショルツ個人を称賛することも忘れなかった。

エイブラムズ供与の本当の目的はそこにある。レオパルト提供に気が進まないショルツを決断に踏み切らせ、見返りとして公の場で盛大な賛辞を贈ることだ。同時に、NATOや米国防総省が主催する「ウクライナ防衛コンタクトグループ」の政治的結束の維持も狙いだった。

昨年4月に第1回会議を開催したコンタクトグループは今や参加国が50カ国を超え、予想をはるかに超える形で定着している。ドイツのレオパルト供与拒否はグループの存続を脅かしていた。取りあえず一安心だ。

©2023 The Slate Group

ニューズウィーク日本版 トランプショック
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月22日号(4月15日発売)は「トランプショック」特集。関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中