最新記事

ロシア

もはや西側の政策もプーチン自身も、ロシアの崩壊を止められない理由

AFTER THE FALL

2023年1月19日(木)16時55分
アレクサンダー・モティル(ラトガーズ大学ニューアーク校政治学教授)

そうした要因はほかにもある。行きすぎた権力集中体制のもろさと無能さ。敗北や病や加齢に伴う個人崇拝の破綻。ずさんな石油価格政策。社会の隅々にまで蔓延する腐敗。世界最後の旧態依然とした帝国における大きな民族的・地域的亀裂。

ロシア崩壊は誰も望んでいないかもしれないが、政治的・経済的・社会的混乱が拡大し、連邦を構成する各共和国が独立を模索するシナリオは想像に難くない。

現在は一触即発の状態なのかもしれない。ウクライナ戦争の失敗がプーチンとロシアの脆弱さを露呈し、それが崩壊寸前のロシアの体制の骨組みに飛び火する可能性は大いにある。

何が引き金になるかは予想できず、ロシアが現在の体制のまま危機を乗り切る可能性はあるが、その場合も国家は大幅に弱体化し、構造的緊張は続くはずだ。

プーチンはロシア崩壊の可能性も考えているのか、1月の新年の国民向け演説でウクライナ戦争がロシアの独立性を脅かす可能性に初めて言及した。

しかし現実にロシアが崩壊した場合、その結果は不安定で暴力的なものになるのだろうか。

ジョージ・ワシントン大学ヨーロッパ・ロシア・ユーラシア研究所のマルレーヌ・ラリュエル所長によれば答えはイエス。「崩壊は複数の内戦を生む」「新たに誕生した小国同士が国境と経済資産をめぐって争う」一方、ロシア政府の支配層は「いかなる分離主義にも暴力で応じる」ためだという。

ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官も「ロシア連邦が崩壊もしくは戦略的政策を実行できなくなれば、11の時間帯にまたがる領土はさまざまな勢力が権力争いを繰り広げるリーダーシップの空白に陥りかねない」と指摘。

領内の勢力は暴力的な方法で紛争を解決しようとし、諸外国は力ずくで領土拡大を図る可能性があり「大量の核兵器の存在がこれらの危険性に拍車をかけるだろう」と警告した。

近隣国の安定が「防疫線」に

ただしどちらも最悪のシナリオであり、歴史上、帝国の崩壊は近隣国や世界にとっては必ずしも悪いことばかりではない。

例えばナポレオン失脚後のヨーロッパは比較的平和で、オーストリア・ハンガリー帝国の場合も崩壊直後はポーランドとウクライナの領有権争いなどはあったものの数年で安定。ソ連崩壊後でさえ驚くほど平和だった。

恐らく、独立した元共和国と新たに誕生したヨーロッパの衛星国で国境が画定し、行政が機能し、支配層が国家建設に着手できる状態だったからだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中