最新記事

フィリピン

比マルコス、初の中国訪問 合意は経済優先、南シナ海問題は「言いたいことも言えず」

2023年1月6日(金)19時22分
大塚智彦
マルコス大統領夫妻と習近平主席夫妻

昨年大統領に就任してから初めて中国を訪問したマルコスだったが…… REUTERS

<習近平の言いなりになるのか、したたかな生き残り策を見いだせるのか>

フィリピンのマルコス大統領は1月3日から初めて中国を公式訪問し、習近平国家主席との首脳会談に臨み、5日にマニラに戻った。

帰国後マルコス大統領は今回の訪問、会談について「心のこもった実り多い会談だった」と述べて肯定的に評価した。しかし国会の野党議員などからは「新鮮味に欠ける訪問だった」と批判的な見方が出ている。

中国との間で懸案事項であった南シナ海を巡る領有権問題、中国船舶のフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内での航行や集結などに関して、訪中前のマルコス大統領は中国批判を強めていた。ところが、首脳会談では習近平国家主席に強い姿勢を直接示すことはなく、2国間のホットライン設置や友好的対話による協議の継続、海洋資源の開発再開などでの合意に留まったからである。

フィリピンにとって中国は最大の貿易相手国である。フィリピン大統領府によると2022年1月から9月までの中国・フィリピン間の総貿易総額は291億ドルでフィリピンからの輸出は81億ドル、輸入は210億ドルとなっている。

こうした経済的結びつきの強さを反映して、今回の首脳会談では農業、貿易、観光、投資などの分野では合意に達した。安全保障の分野では米国と同盟関係にあることも背景に具体的な中国との合意はなく、経済問題を最優先したいとの意向が反映したものとみられている。

14の合意の大半は経済、農業、貿易など

5日の共同声明の中で両国間が合意に達した14項目が明らかにされた。具体的には「一帯一路の協力に関する覚書」や「経済技術協定」などの経済分野や電子技術分野、観光分野、農業分野での合意が大半を占め、焦点の南シナ海などの安保問題に関しては「両国間で生じる誤解回避のため」とする「海洋問題に関するコミュニケーションの確立に関する取り決め」だけとなっている。

要するに南シナ海問題では比中両国の間に危機回避のためにホットラインなど意思疎通を図るチャンネルを設けるということが合意に達しただけだった。このホットラインは比外務省海洋局と中国外務省境界海洋局の間で設置することとなっており、マルコス大統領と習近平国家主席は「この信頼醸成措置は両国の相互信頼の向上に寄与する」と歓迎している。

領有権問題や海洋権益問題に関して中国外務省は「中国はフィリピンと協力して友好的協議を通じて海洋問題を適切に処理し続け、石油と天然ガスの探査に関する交渉を再開し、紛争のない地域での海洋資源探査に関する協力を促進する」との声明を発表したと中国メディアは伝えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

情報BOX:ローマ教皇死去、各国首脳の反応

ワールド

プーチン氏側近「米ロの信頼回復必要」、北極圏協力再

ワールド

トランプ氏、国防長官に「全幅の信頼」と報道官 親族

ビジネス

米CB景気先行指数、3月は0.7%低下 関税巡る不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 2
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投稿した写真が「嫌な予感しかしない」と話題
  • 3
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ページを隠す「金箔の装飾」の意外な意味とは?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 9
    ロシア軍、「大規模部隊による攻撃」に戦術転換...数…
  • 10
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中