比マルコス、初の中国訪問 合意は経済優先、南シナ海問題は「言いたいことも言えず」
昨年大統領に就任してから初めて中国を訪問したマルコスだったが…… REUTERS
<習近平の言いなりになるのか、したたかな生き残り策を見いだせるのか>
フィリピンのマルコス大統領は1月3日から初めて中国を公式訪問し、習近平国家主席との首脳会談に臨み、5日にマニラに戻った。
帰国後マルコス大統領は今回の訪問、会談について「心のこもった実り多い会談だった」と述べて肯定的に評価した。しかし国会の野党議員などからは「新鮮味に欠ける訪問だった」と批判的な見方が出ている。
中国との間で懸案事項であった南シナ海を巡る領有権問題、中国船舶のフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内での航行や集結などに関して、訪中前のマルコス大統領は中国批判を強めていた。ところが、首脳会談では習近平国家主席に強い姿勢を直接示すことはなく、2国間のホットライン設置や友好的対話による協議の継続、海洋資源の開発再開などでの合意に留まったからである。
フィリピンにとって中国は最大の貿易相手国である。フィリピン大統領府によると2022年1月から9月までの中国・フィリピン間の総貿易総額は291億ドルでフィリピンからの輸出は81億ドル、輸入は210億ドルとなっている。
こうした経済的結びつきの強さを反映して、今回の首脳会談では農業、貿易、観光、投資などの分野では合意に達した。安全保障の分野では米国と同盟関係にあることも背景に具体的な中国との合意はなく、経済問題を最優先したいとの意向が反映したものとみられている。
14の合意の大半は経済、農業、貿易など
5日の共同声明の中で両国間が合意に達した14項目が明らかにされた。具体的には「一帯一路の協力に関する覚書」や「経済技術協定」などの経済分野や電子技術分野、観光分野、農業分野での合意が大半を占め、焦点の南シナ海などの安保問題に関しては「両国間で生じる誤解回避のため」とする「海洋問題に関するコミュニケーションの確立に関する取り決め」だけとなっている。
要するに南シナ海問題では比中両国の間に危機回避のためにホットラインなど意思疎通を図るチャンネルを設けるということが合意に達しただけだった。このホットラインは比外務省海洋局と中国外務省境界海洋局の間で設置することとなっており、マルコス大統領と習近平国家主席は「この信頼醸成措置は両国の相互信頼の向上に寄与する」と歓迎している。
領有権問題や海洋権益問題に関して中国外務省は「中国はフィリピンと協力して友好的協議を通じて海洋問題を適切に処理し続け、石油と天然ガスの探査に関する交渉を再開し、紛争のない地域での海洋資源探査に関する協力を促進する」との声明を発表したと中国メディアは伝えている。